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湯殿付きの侍従たちがルトの身体を隅々まで洗い、細かくチェックする。尻の穴の中だけでなく尿道孔も特殊な器具で探られた。皇帝を傷つけないよう爪は丸くカットされ、足の先まで香油を塗られる。
ラシャドが使う媚薬の類ではなく、単純に肌を潤すだけの油だ。塗られた皮膚からは、雄を誘う芳しい香りが立ち上がった。いつも着る薄布一枚は新品に替えられる。
そこからまた侍従のあとを追いかけて、最後にたどり着いたのは皇帝の、寝殿だった。
「いいか、決して無礼を働くんじゃないぞ。伝えた言葉どおりに復唱しろ。陛下の御前には、陛下みずからお呼びになるまで近づくな。十歩先で待て、顔も上げてはならん。陛下のご質問には、お応えしますと前置きしろ。陛下より先に口を開いてはならん」
皇帝の寝殿の扉で待機する年配の獣人が、ルトを厳しく見下ろす。訳がわからず、混乱するまま言われるがまま小さく頷き、開かれた扉の奥に足を進めた。
右手の甲に左の手のひら乗せて、肘の先までぴんと張る。顔は俯かせたまま小刻みに歩く。腰は低く。足音は立てない、歩幅は狭く。おぼつかない足取りで皇帝の十歩先で止まった。皇帝は天幕つきの寝台に腰かけている。
視線を伏せても距離をとっても、気を緩めた瞬間に身を裂かれそうな鋭い緊迫を感じた。存在そのものが他者を圧倒する。冷や汗をかいたルトはさらに腰を深く折り、両膝をつく。先ほど教えられた台詞を慎重に告げた。
「アメジストが孕み腹、名をルトと申します。皇帝陛下に拝謁いたします」
「近くに来い」
張りのある低い声音。ルトのひれ伏した身体が小さく跳ねた。震えそうな足でふらりと立ち上がり、皇帝の傍に寄る。しかし過度な緊張で空気が重たい。どうにか目の前でまで行くと、再び跪いた。
目の前の皇帝を見下ろすなど論外だ、最大限に身を低くして、ルトはひたすら次の指示を待った。
「顔を上げろ」
小さく頷いて命令に従う。目の先にある皇帝と瞳が重なった。闇夜でも眩いほどの、黄金の獅子王だ――こんな顔を、していたのか。そう思うほど整った美貌だ。
思わず息を詰めたルトだが、なぜか皇帝も目を見開き、意表を突かれた表情になった。
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