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鋭利な視線から背けられない怯えを滲ませ、それでもルトが言い返す。息がかかりそうな距離で、ルトを見おろす皇帝が金の目を細めた。
「そなたら人間の存在が罪だ」
「でも、人間がいなくなったら困るのは獣人だ。人間を奴隷として虐げて、無理やり孕み腹にしている。あなたたちが子孫繁栄と喜べるのは人間のおかげだ。人間は、ただ、獣人に捕まらないように怯えて、身を隠しているだけ。俺は……、いいえ人間は、あなたに傷ひとつつけたことはないです。横暴に、人を傷つけているのはあなたのほうだ。罪を作っているのはあなた自身だ」
「減らず口が」
「あなたが見ているのはただの妄執だ。人間はもう獣人に逆らってない。でも、獣人の帝王であるあなたは無抵抗の人間を今もなお虐げてる。それは、遥か昔に、争わない獣人を侵略した人間たちと何が違うんですか」
「黙れ!」
「あなたも罪を犯した人間と変わらないっ。獣人が忌み嫌う人間とあ……っ」
そこまで言ってルトの首が急に締まった。皇帝の腕が、細い首を加減なく握り締めたのだ。息が塞がり、咄嗟に両手を動かして藻掻く。だが拘束は緩まなかった。どころかさらに締め上げられる。
「喋り過ぎだ。余に向かって刃向かうなどとおかしな人間だ。気が変わった。あっさり殺してはやらん、出ていけ。あと何度そなたを召せば、その減らず口が音を上げるか。まずはじっくりと、遊んでやろう」
「ふ……っ」
細い首を絞め上げるに留まらず、力を失くすルトの身体が徐々に持ち上げられていく。憤った皇帝は寝台から完全に立ち上がり、腕一本でルトの身体をじわじわと浮かせた。
酸素を絶たれ、最後のあがきとルトのつま先が床を滑る。かろうじて口を開くが息ができない。脳に巡る血流も止められて、やがて全身が痺れだした。ルトの白い肌が、どす黒い紫色に変色していく。
「ぅッ……ッ…、――ッッ!」
目を開けているのか閉じているのか。豪勢に映る寝殿が暗闇に包まれたとき、皇帝の夜着を握るルトの腕がついに力尽きてぶらりと落ちた。瞬時に皇帝が手を放す。途端、ルトの身体が重たい鉛のように鈍い音を立てて落下した。
機能を奪われた肺が酸素を求め大きく上下する。解放された狭い気道に、大量の空気が一斉に吸いこまれ、せめぎ合うようにひゅうっと甲高い音を立てた。一気に流れだした空気とともに咳きこむ。せき止められた血液までもが急速に全身を駆けめぐった。
がくがくと床を這った手は痺れ、指の先まで汗が噴き出る。動けずに、苦悶する肉塊を、出ていけと足蹴にされた。ルトは這いずるように尻から白濁を垂れ流して、皇帝の閨から抜け出した。
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