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 互いの刀身が鳴き声をあげ、新鮮な空気を振動させて青空まで反響する。激突した隊長の刀を弾き飛ばそうと、剣を持つ腕を大きく広げて振り払った。しかし交わる刃は離れない。隊長は力が強い。払いのけられまいとラシャドを押さえこむ。力のうねりに逆らわず、粘る刃を横滑りさせた。  剣先を滑らせながら、瞬きほどの速さで土の上を回転する。鍛え抜いた体躯を反転させて、振り向きざまに下から隊長の脇腹を狙った。だが隊長の剣が素早い。ラシャドを押し止めて、衝撃の波に乗って後方へ飛んだ。今度は隊長が、接近戦を避けたか。  距離をとる合間に息を整え、剣を握り直す。獲物をしとめる獣のように、すぐさま間合いを詰めた。地を蹴って、隊長に攻め寄り真横から剣をしならせる。  ラシャドの俊敏な攻撃に隊長が食らいつく。猛烈な速さでしなった剣を押し止められた。勢い強く、弾き上がった刃先が顔面間近で唸る。力負けしたラシャドは、とっさに上半身を弓なりに反らした。土の上で片足を大きく滑らせて身をかがめる。そのまま足先を回し、隊長の足元を狙った。  ラシャドの足を避けた隊長が息をつめて跳躍する。体勢が崩れた。隙を逃さず、姿勢を整えたラシャドは、浮いた隊長の胸元をめがけ下から剣を振り上げた。しかし着地を乱しながらも、ラシャドの剛剣を受け止める隊長はさすがの身のこなし。  重なる攻撃をしのぎ合い、互いの剣が激突し合う。跳ね返された剣の動きを利用して、今度は上方から攻めた。だが、唸る隊長が鋭い剣を押し止める。火花を散らして、ラシャドの鋭利な刀身をかわされた。びりびり震える剣術は、ラシャドの腕を走り抜けて腹奥にまで伝道しそう。  力で浮かされた剣を握り直し、今度は斜め上から降り下ろした。洗練の技を緩めない攻撃の連続に、隊長の体躯が後方へと押されていく。  決して腕力だけではない。精密な、速い剣技に、隊長がくぐもった声を紡いだ。 「っぐ」  ラシャドの攻撃に追いつけない隙を、見逃しはしない。足元を崩した隊長に、ラシャドは片足をどんと踏みこみ渾身の一撃を突きだした。それでも隊長は倒れない。どうにか踏みとどまって、互いの剣を交差させてラシャドを押しとめる。  力と力のぶつかり合いだ。好敵手との対戦にラシャドの気が高揚する。十字に重なる剣の一点を支柱に、空高く飛躍した。大柄な隊長の頭上を越えて、白シャツの裾をなびかせる。高い青空の下、ラシャドの体躯が綺麗な一回転を描いた。  力をぶつける先を失った隊長が前のめりに傾く。剣舞のように舞い上がり、降り立つラシャドの剣が隊長の首元を狙った。  空中からの着地と同時、体勢を整える隊長の背後に回る。すとんと地を踏んだラシャドの剣がついに相手の首を捉えた。 「勝負あり」  隊長の首筋に剣を押し当てるラシャドの声が、勝敗の終わりを告げた。はぁっと大きく呼吸をした隊長が、諸手をあげて振り返った。 「まいった」

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