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「……わかってるさ」
「いいや、わかってないな。いいか、ツエルディング後宮にいるモノは、ただ獣人が繁殖するためだけに使われる共用物なんだ。形ばかりの後宮に囲われているが、皇帝ひとりだけのものでなし。シーデリウムにいる獣人が望めば、その身を捧げる存在だ」
地に住まう獣人から空を駆ける獣人まで。あらゆる獣人に使われるものだ。己を切り売りする閨芸者と同じ。いやそれよりも劣る。法に守られた売春宿なら厳しい決め事もあるが、後宮にいるはずの孕み腹には決め事さえない。
そもそも人間は、初めから孕み腹として扱われていなかったのだ。もともとは捕虜として、シーデリウムの復興のために重労働を科されていた。焼け野原となったシーデリウム国を数百年もかけ、人間自らの手で復興させ、他国より栄えだした時代に孕み腹として扱われるようになった。
時代の帝王の重鎮が子に恵まれないことを嘆き、核種胎で様々な人間の腹を試してみた、と史実には残されている。そして現在の孕み腹となった。
自国のために故郷から見捨てられ、他国に飼われ、孕みたくない種を植えつけられて子を産まされる存在へと。長い時代の変化とともに奴隷は姿を変えていった。今では肉体が限界を迎えるまで孕み続ける。
過度な妊娠出産を繰り返し、心身を酷使された人間は、やがて核種胎を受けつけなくなる。子を孕めず、なおも生き延びた腹は、それこそ人間だけを取り扱う娼館に引き渡す運命にあった。まだ若いルトたち……孕み腹には知らされない事実だが。
命が尽きるまで獣人の相手をし、娼館で人間の赤子を育てさせる。後宮で産み落とされた、数少ない人間の赤子たちを。そして激しい蹂躙で命を落とす少年が多くなれば、ヌプンタからのつなぎとして、育った人間の子をわずかばかりでも孕み腹の補充にあてる。
核種胎から生まれた人間は、核種胎に耐えうる少年が多かった。子作りとは名ばかりの、血気盛んな獣人の欲望を満たすために。女児ならばそのまま娼館で使う。少ない雌型の人間は高く売れる。
今思うと、なんと残酷なことをしていたか。なぜ簡単に、この現状を受け入れられていたのだろう。けれどルトを孕み腹として見ていなければ、今のラシャドの葛藤も芽生えなかった。人間の子はいらないと言ったルトの言葉が、ひたすら痛い。
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