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「あの……ありがとう」
消え入りそうな小さい呟きに、ラシャドの包む力が微かに強められた。
***
「――で、なぁなぁなぁっ、ルトも今夜はいけるんだろ?」
夜を迎え食堂に身を落ち着けたルトは、横から飛んできた声に意識を鮮明にさせた。ラシャドの腕の中で少し眠れたとはいえ、朝から酷使された身はどうしても疲れが残る。途切れそうになった思考を立て直し、浮かれ気味のラザに顔を向けた。
肘でつつかれ、食事の手を止めて無理やり笑みを作る。口に入れた食べ物を小さく噛み砕くが、重苦しい胃には入る隙間もない。昼間に取りこんだ精液と排尿で、動くたびにたぽたぽして吐き気さえしてくる。それでもどうにか、含んだ食べ物を嚥下した。
「うん。今夜はいけるよ。俺も、会えるのは久しぶりだから楽しみ。エミルが戻ってきたらすぐ動けるようにしておこう」
今夜はエミルたちみんなで、ユージンの顔を見に行こうと計画を立てた。ルトは昨日皇帝に召されたばかりだ、きっと今夜は呼ばれない。
足環の呼び出しが多くなったルトは、外に出られる時間が少なくなった。エミルたちは何度か顔を見せていたが、様子を聞くだけのルトは、まだ一度もユージンのところに行けていない。
紫苑殿にいたときに、ユージンが孕み腹の宮殿に移ったからルトとは入れ違いだった。与えられた宮殿でひとり過ごすユージンが気がかりで、またみんなでそろって顔を見せに行こうと話し合ったところ。
ルト自身も、紫苑殿でエミルたちに驚きと喜びをもらった。あと数日で出産するというユージンにその気持ちを返したい。気を落ち着けて、胃もたれしそうな気色悪さを叱咤する。
弱音を押し殺したルトに、ラザたちが大きく頷いた。
「オーケー。そしたら今晩、日付が変わる頃に決行だな。そのときは、みんな集まれたらいいけど」
「みんなで会えるの、久しぶりー」
にこりと笑うパーシーが続けて言う。首が取れそうなほど大きく頷くラザは、とくにユージンと気が合うのか。計画を立てるときから浮足立っている。
ルトから見たら、それぞれ男気があり喧嘩も多い二人だが。待ち遠しくてならないラザの様子に、ルトはこっそり眉を下げて笑みをこぼした。
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