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 人間を虐げる獣人を、魔術師がどう思っているか。それは彼らにしかわからない。けれど大陸を統べる獣人の王が、他国に踏み入ってまで干渉するものでもない。  ただ、人間嫌いの獣人に目をつけられないよう、人間との子は人間国に捨てる。それが魔術師の国ゼルファーダでは暗黙のルールになったという。噂の真偽を、確かめたことはなかったが、と皇帝が続けた。 「混血であるそなたの力がそれほど強いなら、親は相当な力の持ち主だったろう。あるいは、先祖返りか。いずれにせよそなたは、精霊の血が濃いのかもしれんな」  あれほど痛めつけても死ななかった。ルトの生命力が強いのもそのためかと皇帝が独りごちた。だがそれよりも、精霊の血など初めて聞いた。 「精霊の血?」  紫水の瞳を丸くして反射的に聞き返す。すると、軽く見張った皇帝の、鋭い瞳がルトを捉えた。 「よもや人間は知らぬのか。精霊の血を」  再び言われて困惑する。知るわけがない。ヌプンタは、獣人にも魔術師にも関わらず、息をひそめて生き延びた国だ。  それこそ村長が古代語を操るように、もしかしたら上位階級の人間だけが知る情報が、ヌプンタにも残っているのかもしれない。だがルトの身分では知りたくても無理だ。 「知りません。俺たちヌプンタは、とても閉鎖的な国だから」 「だろうの。だがそれもそなたらの祖先が招いた種だ。ならばなぜ、我ら獣人がこれほど人間を忌むか、その根源も知らぬか。自らの悪には目を背ける、卑しい人間らしいの」 「根源……?」  人間が恨まれる根っこなんてあったのか。困惑の声を上げたルトに、皇帝は睥睨する視線を向けた。 「もともと我ら獣人と魔術師と人間は、共存し、同胞として生きていたのだ」  とても平和で、協力的であったと古代書は記す。それを欲に囚われた人間が均衡を破ったのだ。 「人が、均衡を破った……」 「そもそも獣人と魔術師は、もとはただの動物と人間だそうだぞ」  皇帝の言い分に驚きを隠せずルトは目を見開いた。それはまだ、大陸が各国に分裂していない、太古の時代までさかのぼるという。  あるとき大陸にある、ひとつの村が疫病に見舞われた。恐ろしい病は止まることを知らず、蔓延し、その村を中心に多くの人間や動物が命を落とした。とてつもない速さで広範囲に。  大陸に面する海にまで広がり、すべての生き物たちは脅威に恐れ遠い地へと逃げた、病に倒れる人々を見捨てて。

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