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 しかし病魔は留まらない。たちまち大陸は疫病にのまれ死地となった。その魔の手は、森林の最奥に住む動物たちにまで及んだという。そして、そこには幻想と呼ばれた人知を超える存在がいた。森の奥深くに生息するとされた精霊である。  精霊はすべての生命を慈しむ生き物とされている。同じ森で生息する動物たちが苦しみ、もがくのを、彼らは見捨てられなかった。さらには人々の生命が次々と奪われる惨状を見かね、精霊たちは己の血を分け与えたのだ。  まさしく神秘の恵みだった。精霊の血を口にした人間や動物の病は、見る見るうちに治ったという。むろん人知を超えた生き血に耐えられず、命を落とすものもいたが。だがそれでも、どんな生薬も治療も効果が得られなかったのにと、病魔と闘う人々は歓喜に震えた。  復活を遂げた大陸は、その後ある変化に気づく。精霊の血を与えられた人々や動物に、その域を超えた力が宿っていたのだ。  ただの人間は少しずつ髪や瞳の色が変わり、風や水といった自然を操る。他にも治癒や予知、空間移動といった様々な能力が。そして動物には言語が宿り、二足歩行が可能となって、人型がとれるようになったとされる。  その発祥の地は、疫病の中心となった最初の地。現在の、魔術師の国ゼルファーダである。 「その後我ら獣人の力が大きくなり、シーデリウム国として独立した」  そして大陸は獣人と魔術師と人間の国に別れる。古代当初、三国は共存していたが時代とともに変革が起きるもの。  幾代かの時が移り変わり、やがて何の力も持たない人間が行動を起こす。力のある魔術師に嫉妬し、超人的な身体能力がある獣人を羨望した。  何一つ力を持たぬ人間は、奇怪な魔術を操る魔術師よりも、まだ小国だった不器用な獣人の国を狙ったのだ。特別な力を得ようと。  それからはルトも知っている。人間は大敗し、今もこうして底辺として扱われている。 「当然の報いであろう」  あまりに身勝手。疫病が蔓延した時代では我先に逃げ出したはず。のたうち回るものたちを焼き払い、病魔を根絶やしにしたはずだ。  それでも獣人と魔術師は人間を見捨てなかった。同じ大陸に生きるものだ。身内や己が命の危険にさらされてなお、絶滅の危機に陥れば、致し方ないことだと。それぞれは、人間の血と精霊の血で繋がる同胞であると。  しかしどうだ。人間は力が得られなかった現実を悔しがるようになり、力の差に逆恨みした。そして平和だった大陸を……緑豊かなシーデリウム国を、火の海に変えたのだ。奇妙な武器を開発し、老若男女、ありとあらゆる獣人を殺戮した。

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