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「お前は子を孕んだ」
うそだ。ルトの唇が音もなく動いた。信じられない、二回目の核種胎を入れられて、まだ二週間と経っていない。四日前、ラシャドが核種胎の熟し具合を確かめたときは、もう少しかかると言ったのに。
ルトは急いで先ほどできなかった確認をした。慌てて左足首に視線をやる。そこには黒々と光る足環があった。子を孕んだ証が。けれどラシャドのときは、妊娠が発覚するにも幾日かかかったはずだ。これも皇帝の影響か。
「そんな、なんで」
「父親の種が誰かを調べねばならん。獣人の子か、人間の子かもな」
混乱して呟いた声は魔術師に遮られる。ルトの顔色がますます白くなった。そうだ、獣人が必ず生まれるとは限らなかった。たとえ数パーセントでも人間の子だったら。ルトは震える唇を噛みしめた。
「来い」
じっとりと手汗をかいた手のひらで、腹の傍を握り締める。うつむいたルトに魔術師の腕が伸びた。力任せに引っ張られ、ついていかない足がもつれる。エミルたちの心配げな視線が、視界の隅で走り去った。
澄んだ空の下に、いくつもの高い塔がそびえ立つ。動きの悪い身体を遠慮なしに押され、よろけながらアトラプルム館の一画に足を踏み入れた。
全面がガラス張りになった、広い区画の査察室だ。すべてを見通せる洒落た空間は、片側の壁が緩やかな曲線を描く。巨大な塔を半分にした半円だった。
待機するのは九人……いや、背後の魔術師を入れたら十人くらいか。芸術的に造られた空間で縮こまるルトに、透きとおった瑠璃色の瞳が目線を飛ばし、顎をしゃくった。
「服はいらんな、脱がせ」
「だな、了解」
合図を受けた他の魔術師が次々に近寄ってくる。複数の手で全裸に剥かれ、固まる二の腕を掴まれた。成人した男の手のひらが白い肌に食いこみ、奥にある寝台まで連れていかれる。大の獣人が四、五人は寝られるだろう頑丈な寝台へ。
「こっちだ。来い」
「あ……っ」
自分から寝そべることもできず、全裸のまま立ち尽くす。動けないでいたら、細い右足に重たい金属を繋がれた。寝台から数メートルほど動けるだろう長さの鎖を。素肌にあたる感覚が、ひどく冷たい。
仰向けに身体を倒されれば、ルトの視界が空中を泳いだ。ルトを囲む大勢の魔術師たちがぐるりと回り、黒い影の隙間を縫ってさらに遠くを映す。大の字で身体を調べる診察台や、両足を広げて固定する椅子型の診台。何に使うのかわからない道具まで。
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