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だが他の獣人では駄目だ。どうしても。孕み腹の役目など知ったことか。
「陛下。ルトに構わないでください。陛下の手付きとなった孕み腹を試そうと、獣人たちが騒いでいるのはご存知でしょう」
夜伽が毎晩になり、皇帝に仕える臣下でさえ興味を示し出している。たかが孕み腹が、これほど注目を浴びるなど異例の事態だ。このまま皇帝が傍観し、かつルトを召し続けるならルトの命は絶望的だ。
グレンが懇願するほどに皇帝の纏う空気が重苦しくなっていく。説得にかかるグレンを、皇帝の尖る瞳が冷ややかに見つめ返した。
「それほどあれが気になるか。獣人と孕み腹の、愚かな末路は余が言うまでもなかろう。そなたとあれがいくら慕い合おうと、結ばれはせぬぞ。余が許さぬ。あれは孕み腹として、相応の扱いをする。何度も言わすでない」
皇帝の苦言にグレンがぐっと言葉を詰めた。孕み腹に入れこむなと言葉の裏で警告される。言われなくともわかっている。堪らず唇を噛めれば、皇帝がさらに追いこんできた。
「だが、そなたがあれを孕み腹として扱うなら構わん。一度くらい、そなたもその腕に抱いてやったらどうだ。よもやあれの想いがわからぬわけではあるまい?」
「……おやめください」
グレンは喉に詰まった想いを絞り出すように唸った。わかっているとも、ルトの気持ちの先は。澄んだ紫水の瞳が、ときおり切なげに揺れるのを。
そのたびに、優しい心を大切に温めて、グレンとて柔らかな身体に触れてみたいとさえ思う。小さな存在を抱きしめたくて、たまらなくなる。けれど、孕み腹という境遇が邪魔をする。
一度でも触れたら、際限なく求めてしまいそうで。そうなれば、他の獣人がルトに触れるのを許せなくなるだろう。たとえラシャドであったとしても。グレンの独占欲は、きっとルトを苦しめる。
そしてさらにはルトをますます渦中におとしめてしまうのだ。色恋に無頓着なグレンが孕み腹に手を出せば、ルトに興味を示す臣下たちに油を注ぐ。
王宮に広まる噂は厄介だ。目もくれないはずの人間を召した、皇帝の傍で仕えるグレンだからこそ、これまでどおり無関心を貫かねばならなかった。
欲望のままルトを手に入れ、新たに降りかかるだろう苦難にルトが耐えられなくなるのが怖かった。枷が外れてしまったら、ルトを連れて、遠い地へ駆け出してしまいそうで。
心に灯る、生まれて初めての感情をいくら自覚しようとも、所詮は孕み腹と獣人だ。ただの奴隷と、支配者だ。
「そなたにはできぬか。だがあれは、死ぬまで孕み腹として生きるのだ。特別扱いはせぬ」
「だから今後も孕み腹として召し抱えると? ではもしルトが、陛下の御子を宿したらどうなさるおつもりですか」
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