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成熟した偽子宮は皇帝の子も孕む。皇帝自身が人間の子を望まずとも、帝王の子を殺すなど臣下が許さないし、あってはならない。
獣性が強い獅子王の落とし種は、獅子の子しか生まれないのだから。むろん歴代の帝王が、孕み腹に子を産ませた前例もない。
なおも食い下がるグレンに、皇帝は酷薄な笑みを浮かべた。
「偽子宮となった腹に子種を注いだとしても、余の子は孕まん。偽子宮で種が育たぬよう、魔術師に細工させている」
「細工?」
「核種胎の機能を一時的に絶ち、子種が着床せぬようにの」
核種胎の力をすべて遮断し、獣人の種を供給しないように。流れを完全に止めて偽子宮への道を塞ぐのだ。念には念をと、子種の勢いも弱めている。
「余があれに、子種を注ぐ間だけだ。孕み腹が活動し始める時間帯には、核種胎も活力を取り戻していよう」
息を吹き返した核種胎は、注がれた皇帝の精を丸呑みして力をつける。しかし、勢いを削がれた子種は着床まで至らない。眠りから覚めるように活性化した偽子宮は、新たに注がれるだろう活きの良い種を取りこめばいいのだ。
「あれは細工に気づいとらんがな。魔術師に連れられるまま、空間移動をさせられていると思っておろう」
つまり核種胎の成熟は促されるが、いざ偽子宮となったら妊娠しないよう管理している。そして、他の獣人に差し出すのだ。
真っ向から皇帝に向かうグレンの両目が、咎める眼差しをのせた。無意識に握った拳がぶるぶると震える。身体の芯から湧き上がるのは怒りだろうか。
「そのなさりようは、あまりに無情です、陛下」
「無情だと? そもそも余が孕み腹をどう扱うかなど、今更だと思わんか。人間に情けなど。慈悲をかける余の民衆でもあるまい。グレンそなたとて孕み腹を……人間を、厭うておったはず」
皇帝の鋭い眼光がグレンの怒りを抑えこんだ。痛すぎる指摘だ。以前はそうだった、ルトと出会う前なら。
疑問も抱かず、皇帝が進む道を信じてきた。影あれば率先して取り除き、道を照らした。それが当然であると信じていた。
愚かだった。今は、そんな自分をただ恥じるばかりだ。人間は決して獣人の道具ではない。彼らはグレンたち獣人と同じ時を、同じ命を生きるものだ。そこに上下の差などなかった。
「私が、愚かでした。人間をまともに知ろうともしないのに、悪だと決めつけて虐げていた。それが当然だと思っていました。ですがそれは間違いだった」
人間は卑しき奴隷。たかがグレンたち数人が団結したところで、獣人の……ひいては魔術師たちの認識を覆せはしないだろう。グレンたちがしていることは、ただのあがきにしかならないけれど、それでも指をくわえて見るだけよりもずっとまし。
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