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 孕み腹におとされた人間への暴虐を、終わらせるべきなのだ。獣人自らの手で、今からでも、少しずつでも動かなければ。どんなに突き放されようと。 「陛下。あなたは人間は悪魔だと言った。ですが、悪魔などどこにもいなかった。あるのは我ら獣人と同じ、命あるものだ。あなたは仰った。この国にいるすべてのものは、己が守るべき命だと。誰であろうと侵させはしないと。ならば、人種は違えども、この国に足を踏み入れましてやあなたが住まう王宮にいる。あなたの国で生きる彼らも、あなたの民衆になりましょう。たとえ憎き人間であろうとも、あなたがしかと見るべき、あなたの民衆になりましょう!」  帝位についたとき計り知れない重責とともに、毅然と前を向いた獅子王は、誰よりも勇ましかった。憧れと尊敬と。輝く王冠を授かった偉大な姿は、今でも絵に描いたように思い起こせる。  それなのに、憎悪に囚われた心にはどうしても響かぬ思いか。虚しさを抱え蜂蜜色の瞳が歪む。昂る感情のまま、グレンは震える唇を噛み締めた。  諦観めいた悲痛な糾弾を、皇帝は静かに見返した。ただただ静かに……冷静に。一つ。二つの間をおいて、そして、金色の獅子は重々しく口を開いた。 「ならば、この恨みをどうせよと。わかるか。我が同胞の苦しみが」  憤るグレンの眼差しを正面から受け止めた皇帝が、忌まわしげに吐き捨てた。金の両目を細め、尖らせ、美しい双眸を怒りと憎しみに染め上げる。  やり場のない怒気だ。帝王の威圧がひと息に解放された。じとりと、降りかかる無言の圧力が最高潮に達する。空気がぎしりと軋んだ気がした。 「わかるか。夜ごと、同胞が怨念を撒き散らす。夜な夜な血の山を登り続ける。己が歩く道をそうとも知らずに。疲れ果て、瞳が映すのは、千切られた腕、もがれた脚、ひしゃげた肉体。悪戯に切り落とされた動物の耳と尾だ。子を宿した腹は裂かれ、泣き叫ぶしかない赤子は埋もれ。己の素足でそれらの残骸を踏み荒らし、幾千幾億の針山の頂にひとり立つ。血にまみれた足元からは声がするぞ、敵を討て、人間を殺せ、敵を討て、敵を討て! わかるか! 同胞を殺戮した報いと、今すぐその身を切り刻みたいものを! 生かしてやっているだけありがたいと思え!」  憎しみを抱いた皇帝の片腕が激しく振り下ろされた。断罪する凄まじい雄叫びだ。我が身さえ切り裂きそうな。  腹の底から搾り出した怒気は、空気を振動させるどころか刃となって突き破る。懐に隠す鋭利な暗器は、対峙するグレンの心臓さえも一突きにした。広い空間なのに圧迫されて狭苦しい。自由になる呼吸さえも抑圧された。  伸しかかる重圧にあとどれだけ耐えうるか。動きを止めたグレンに、皇帝は底冷えする冷徹さで言い放った。

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