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 うつむくルトは顔をあげ、不安げに周りを見た。宮殿の外は多くの獣人が行き交う。初めの頃みたいに、ラシャドが他の獣人にルトを差し出したらまた大勢で嬲られる。行き先がわからなくて、掴まれた細い腕が意識せずに抵抗した。  動きが鈍いルトを引っ張って先を急ぐラシャドだったが、ほんのわずかな抵抗をみせたルトを肩越しに覗く。後宮を出て、いよいよ青空の下に踏み出そうというときだ。  どこかへ飛んた意識が、ルトのなかに不意に戻った。ルトの視界が急に開いた感覚がして、無言で進むラシャドの背中をはっきりと捉えた。 「どこに行くんですか? どうして外に……」 「いいから来い」  不安に揺れた弱い声音を制される。紫水の瞳に困惑を乗せたルトは、誘導に逆らわず無言で足を進めた。あっという間に、足早に宮外へ連れ出される。  憎いほど澄んだ、晴れやかな空の下だ。どこまでも広がる明るい景色が、揺れる視界の隅で流れ去った。  色鮮やかな花の絨毯が、隙間なく敷き詰められる一本道だ。四方八方、いたるところで大きく開花した華やかな風景は美しいが、大柄な獣人がひとり通れるかという道の狭さ。他の獣人とかち合わないよう、あえて細々した場所を選んでいるのか。  だが途中、ラシャドの顔見知りがいたらしい。ルトの手を引くラシャドが、立ち止まって舌打ちした。 「ちっ、めんどくせぇ」 「ラシャドじゃねぇか。花に埋もれて今からお楽しみかい? 俺も混ぜろよ」  ルトを引っ張る広い背中に小さな身が隠される。相手の姿は見えないが、粗削りないかつい声だ。咄嗟に息をひそめてラシャドの後ろで怯える。黒い背中の後ろで棒立ちしていれば、新たな獣人が、軽快に砂利を踏む足音がした。  だんだん足音は大きくなって、近寄ってくる獣人に身を竦める。しかしすぐさま、掴まれた腕を一瞬で引き寄せられた。 「……っ」  小さく詰めた吐息ごと、ラシャドの厚い胸板に細い上半身が抱き包まれる。ルトの小さい身体は完全にラシャドに隠されて、見える隙間もないだろう。 「悪いがひとりで楽しみたい気分なんでな。他をあたれ」  砂利を進む音が止まった。目の前に迫る獣人が不満そうに鼻を鳴らす。ルトを抱き寄せた分厚い胸が上下して、ラシャドが肩をすくめたのがわかった。緊張してラシャドの服をきゅっと掴めば、さらにきつく抱きしめられた。  相手にルトの顔が見えないよう密着しつつ、身体の位置を動かしたラシャドが、片腕を振って追い払う。暗に邪魔をするなと態度で示した気配に、獣人の卑下した笑い声が聞こえた。 「精がでるねぇ。お前つい最近ガキを孕ませたとこだろ。子だくさんもいいがほどほどにしろよ」 「ほっとけ」

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