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ルトの視線を受けたグレンが、子をあやしながら微笑む。愛おしそうに抱かれた幼子は、グレンに近寄ったラシャドへ小さな腕を目いっぱい伸ばした。ラシャドは慣れた手つきで子を抱き上げて、目を見張るルトに向き直った。
力強い腕に包まれた幼子の黒髪に、尖った耳がある。髪の毛に埋もれてしまうくらい小さい耳がぴくぴくと動いた。柔らかそうな丸い頬は無邪気な笑みを作り、きゃっきゃっとはしゃぐ口元には小さな牙が生える。抱えられた腕の隙間から、ふさふさの黒い尻尾が、こぢんまりと不器用にぶんぶんと揺れた。
そしてなにより、幼いながらも鼻筋の整った造形は、腕に抱くラシャドと瓜二つ。
「ルイスだ。ルイス・ロウゼ」
目の先で、ルトが詰めた息をどうにか吐きだした。言われなくてもわかる、この子はルトが生んだ、ラシャドの子だ。ルイスという名はルトの名からとったという。
人間より成長が早いと聞くが、幼子はまだうまく喋られない。初めて見る人間のルトを、不思議な生き物を見つけたようにじっと見つめて、あう、あう、とラシャドの胸をぺちぺちと叩く。小さな獣が威嚇しているような、興味津々といったような。
可愛らしい仕草に、ルイスを見やるラシャドの切れ長の目元が緩む。威圧的ではない、穏やかな表情が、垣間見えたすぐあと。ふりしぼったようなつかえた声が、ルトの喉から発せられた。
「ぅ……っ」
紫水の瞳は涙に濡れて、やがて一筋の大粒の雫を落とす。先日産まれたワニ族の子は、ルトの目覚めを待たず早々に取り上げられた。眠らされたルトが起きたときはすでになく、一度も目にできなかった。そのせいで、しばらくの間ひどく不安定になった。
獣人の子など顔も見たくないとエミルたちは口をそろえる。そうだろう。尊厳も、人格も、何もかも蹂躙されて植えつけられた種だ。存在すら消したいはずだ。ましてや、生まれ持つ性を捻じ曲げられて作られた子だ。けれど、こうして見られたら、ルトのなかでこみ上げる想いがあった。
見た目は人間とは違っていても、その存在はルトと同じだ。無力で、小さな身体で、生きようとする命の鼓動がここにある。
静かに涙を流すルトに、ラシャドとグレンの表情が硬くなった。結局は無理やり孕まされた獣人の子だ、ルイスを突き放してもおかしくはない。
涙を落としたルトに緊張しているのだろうか。小さな子を抱くラシャドの腕に、力がこめられるのが見えた。
ラシャドの腕から緊迫する雰囲気を察したのか、ルトとラシャドを交互に見るルイスの、真っ黒な大きい瞳が不安げに揺れる。さっきのはしゃぎ声が泣きだしそうになったとき、ルトは両腕を差し出た。
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