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「いい子。ルイス、ルイス……。触っても、いいですか」
「……ああ、もちろんだ」
ルトの第一声に、緊張を解いた声音でラシャドが言った。両腕に抱くルイスを、ルトに近づけてくる。近づくルイスの丸い頬に細い指先を添え、ルトは慈しむ手で柔らかな黒髪を撫でた。
和んだ雰囲気にルイスの不安も紛れたよう。丸い漆黒の瞳をぱちぱちと瞬いて、ラシャドの腕の隙間からルトを覗く。
「抱っこしてもいい? おいで、ルイス」
「あうー、うぅー」
言葉ははっきりとわかっていないはずだ。だがルトとルイスは会話するように呼び合った。嫌がる素振りもなく、ルイスが大人しくルトの腕に抱かれる。ルトの頬が柔らかくほっと緩んだ。優しく笑み、ルイスをとんとんと揺らしてあやす。
ルイスをとられた獣人二人は手持ち無沙汰になった様子だ。ルトたちの対面を、静かに並んで見届けていた。しばらくして、ラシャドの隣から、穏やかな声がした。
「ルトは、子どもをあやすのが上手なんだな。ルイスは警戒心が強いと思っていたんだが、もう笑ってる」
「ああ、そうだな」
腕のなかで弾むルイスに気をやっていれば、他愛ない会話が聞こえてくる。丸々する小さな手を伸ばし、ルトの柔らかなつるつるした丸い耳を、ぺたぺた引っ張るルイスから顔をあげた。
「俺、ヌプンタでは村の子どもたちの世話係だったんです」
「世話係?」
「はい。世話といっても、一緒に遊んだり、草木の手入れをしたり。みんなが俺を助けてくれることもあったし。毎日、賑やかに過ごしてました」
「そうか。だからルトは、人でも花でも面倒見がいいんだね」
甘い瞳を細め、グレンが優しく頬を緩めた。落ち着く雰囲気にルトの頬が赤らむ。甘え下手なルトを、どこまでも甘やかすグレンの視線が照れくさくて、ルトは思わずルイスを盾にして顔を隠した。
グレンとルトの和んだやり取りに、ラシャドは面白くねぇと、ルイスをとり上げにかかってきた。
「こっちに来い、ルイス」
剛腕が幼子に伸びる。が、ルイスはルトにしがみついて離れない。傍で様子を見ていたグレンは意地の悪い笑みを見せた。
「振られたな」
「うるせぇ。てめぇのせいだろ」
「怖い怖い。睨むとルイスが懐かないぞ。あの子は感情に聡いからな」
だから、グレンのせいである。そんな心の声が聞こえてきそう。ルトを大広間から連れてくる間、後宮に入れない乳母にかわって面倒をみてもらっていたようだが。けっと吐き捨てたラシャドは、今すぐにでも、邪魔者のグレンを叩きだしそうになっていた。
遠くから一目見るだけでいい、そう思っていたのに。成長を腕に抱けて、しかも名前まで呼べたなんて。ルイスはとても温かかった。小さな重みは、冷えたルトの心まで暖めてくれた。
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