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 コルネーリォを信じる。はるか先を見据えたグレンは、闘志を漲らせ口角を上げた。  独創的な朝議殿は、シーデリウムが誇る宮殿のひとつだ。帝国の最先端をいく獣人が、百人近く集まっても余裕がある。  華やかな壁からは、様々な動物の石像が感性よく飛び出して、今にも動き出しそうな躍動感がある。宮殿の支柱には樹木が使われ、蔓を巻いた大木もあった。合間に浮かぶ燈籠が点々と明るく、光の森にいるようだ。王座の近くには、小さな池彫りまであった。  開放的な朝議殿で皇帝の姿は遠く、いちばん奥に君臨する。扇状の階段を五段ほど上がり、獅子を飾る王座に腰を据えた。数段下では、上奏を読みあげる文官が隅に控える。  グレンは臣下のひとりとして階きざはしのもとに待機した。正装の軍服をまとう近衛兵隊長や、精鋭兵の隊長と副隊長もある。役職や階級にあった官服をそれぞれ整えて、王座の中央から左右にわかれ乱れなく整列した。  下座では、宮廷魔術師も十人ほどそろう。みなが国営を担うものたちだ。皇帝を前に、全員が顔を軽く伏せていた。  誰ひとり動かぬ空間は不自然な静けさがある。王座にいる皇帝が、厳格に口を開いた。 「一週間前、余の宮殿で騒ぎを起こした近衛兵どもを連れてこい」  低く張りがある皇帝の声に従い、上奏を扱う文官が獣人たちの連行を指示する。厳重な朝議殿の扉が、ゆっくりと開かれた。  先頭を歩く司法官に連れられ、ルトを暴行した獣人たちが現れる。大きな胴体を一列に拘束され、周囲を見回す顔つきは蒼白だ。サイの獣人に至っては不服そうに口元を曲げ、どこか恨めしげに表情を歪ませた。  皇帝が座する壇上が近づけば、引っ立てられた獣人の耳や尾が小刻みに動く。緊迫した殿内を警戒する仕草だ。暴れないよう魔術具を使われて、獣化を封じられて気が立っているのだ。  臣下の間を通り、中央に座する皇帝の前に引き渡される。差し出された複数の獣人たちはその場に跪かされた。  司法官が拝礼をとり、頭を下げながら後退する。列に戻った司法官を見届けてから、罪人を見下ろす皇帝が冷酷に口火を切った。 「言い渡す。このものらは余の宮殿で淫行にふけり、悶着を起こした。四半分を減俸し、首をすげ替えろ」  鳴り響いた処罰にグレンは息を詰めて顔を上げた。目を伏せる臣下が一斉にざわつき、厳粛な空間にあからさまな動揺が走る。

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