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無理もない。首をすげ替えるとは官職の剥奪と同じ。そのうえ朝議殿で正式に官位を剥奪されたものは、二度と王宮を跨げない。どころか不逞を侵したものとして、一族郎党、三代に渡り官職にありつけなくなる。
罪人のなかには王族と懇意にする名家もある。たかだか孕み腹の騒ぎで、一切の容赦なく切り捨てるとは。
冷酷な拝命を彼らが素直に受け入れて、黙っているとは思えない。もちろんエスマリク宮殿を騒がせたのは処罰に値する。それでも手厳しい。
淡々と状況を把握したグレンの予測どおり、左右で整列する老臣のひとりが異論の声を上げた。
茶色の官服を着ている、内侍官の副長だ。引っ立てられた、頭脳派の臣下と懇意にあった。副長は、厳罰を受けた獣人たちの前に移動し、皇帝に一礼した。
「申し上げます、陛下。エスマリク宮殿を騒がせた、このものらの罪は看過できませぬ。なれど、剥奪とは些か罰が過ぎますぞ。もとより孕み腹が、王の住まう宮殿をふらついていたのが元凶ゆえ。騒動の元となった孕み腹を処刑し、このものらは減俸だけでよろしいでしょう!」
さも平然と申し立てる老臣に、次々と同調の声が重なる。獣人の減刑と孕み腹の処刑を求める賛同が、広い殿内に響き渡った。勢いづく波に乗り、処罰を受けた獣人のひとりが拘束されたまま立ち上がり、がなり立てた。
「そのとおりです、陛下! なぜ私どもが罰を受けなければならないのですか。私たち獣人は、孕み腹をいつでも使える権利があるはず!」
「さようでございます! 陛下とて、夜毎孕み腹を使い、解放せぬとのこと。さらに先の夜では、腹心であるグレン殿に下げ渡したと聞き及んでおりますぞ! 孕み腹とて、我ら獣人に使われるのは誉でありましょう。結果、命尽きても構いますまい」
処罰ならルトにしろと遠回しに訴える進言に、同調する声が最高潮に達する。厳罰の異論に熱が入り、荒れる一方の朝議をしかし皇帝が一蹴した。
「黙れ。罪人の処遇を決めるのは余であって臣下にあらず。余の言葉はこの国の言葉だ。それを承知で逆らうのであれば、そのものらも同罪とみなす」
水面下で振動する明らかな怒り。声を荒げることもなく、静かに覇気を漲らせ、皇帝が王者の気を張り巡らせる。地の底から火山が噴火する寸前の、静けさと激しさを秘めていた。
ただならぬ皇帝の気にあてられて、がなり立てた獣人は再び跪く。さすがというべきか。進み出た老臣は腰を抜かしはしなかったが、もう口を開かなかった。口をつぐみ一礼し、もとの列に身を隠す。
グレンは冷静に殿内の光景を眺めた。皇帝の厳しい処罰に反発する論争が、荒れるほどいい。与えられた機会は一度きり。ぎりぎりの引き際を見極めて、嵐が過ぎ去ったころ颯爽と声を張った。
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