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「精鋭兵副隊長、ラシャド殿とお見受けする。だがおかしい。孕み腹の廃止を唱えておきながら、ご自身はつい最近二人目を孕ませたと聞いたが? この場にいる誰よりも孕み腹を使っている身で、廃止を口にするとは笑止千万!」  ラシャドの左後ろから蔑んだ叱責が飛ぶ。グレンの目の端で、ラシャドの口元がくいしばり、嘲笑めいた形に変わった。漆黒の瞳がわずかに下を向く。  ルトが新たに孕んだと聞かされたのは、蹂躙されて治療を受けたときだった。偽子宮に着床したばかりの、形にすらなっていない小さな芽だ。足輪にも反応しないほどの。  数ある魔術でも、特に高度な技術が必要とされる仮死の術だ。ルトの細胞の隅々まで、コルネーリォが完璧にかけたことで発覚し、ルトも子も一命をとりとめた。慎重に治療を施され、昏睡中に核種胎の遺伝子を調べ、ラシャドが浮上したのだ。  父親の子種に勝るものはないが、今はラシャドの精は与えられない。代わりに、魔術師の術で核種胎の力を増殖させ、腹の子を育てている。  この状況でルトを孕ませたことを、もしかしたらラシャドは恥じているかもしれない。だがグレンはそう思わない。  ラシャドならルトを大切にする。ルイスの失敗があるから今度こそ守り抜く。もしかしたら孕み腹の宮殿に、ルトを閉じこめてしまうかもしれない。それは同じ相手を想う確信だった。  子を孕めば、皇帝さえも手出しできない。ルトは、望まないかもしれないが、それでも傷ついてなお狙われ続けるルトを、包んでくれる場所になるはず。ラシャドでよかったと安堵した。  グレンの思惑とは別に、一度唇を閉じたラシャドは沈んだ声を絞り出した。 「たしかに、俺が言えた義理ではないな。だが孕み腹はもう、この国に必要ない。人間を利用し続けなくとも、シーデリウム帝国は十分に大国となったはずだ」 「戯言を。子孫が繫栄し続けてこそ更なる発展に繋がろう!」 「いかにも、孕み腹は必要だ!」  そうだ、そうだと再び騒ぎ出す。そのなかで、新たな賛同者がラシャドの隣に並び立った。 「申し上げます。孕み腹の撤廃、遅ればせながら私も賛同いたしまする!」

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