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獣人の頂点に立つ獣性を細かく調べられれば、強い力に対応できる核種胎を作る、糸口になるかもしれない。最も強い獣性が、核種胎の成熟にどれくらいの誤差をどのように与えるのか。それも分析できれば改善点も見えてくる。
より強い獣性に耐えうる核種胎を開発できれば、拮抗する核の不安定さを調整し、核種胎の力を安定させられるかもしれない。それは一縷の光になった。
「むろん今は、可能性の域を超えませぬ。なれどもお許しいただけるなら、確実に、成し遂げてみせましょう」
「申し上げます。しかし孕み腹が必要ないとすれば、先の未来で、人間が再び獣人を侵略せぬとも限りませぬ。やはり、人間に対する何らかの制裁は必要かと存じ上げます」
儀典長の苦言だった。入れ替わりにコルネーリォが一礼して身を引く。次々飛び交う論争に、グレンが次の弁を説こうとしたときだ。サメの獣人が意外な弁論を重ねた。外交官長だ。忠をとりながら、皇帝の前へ進み出る。
「陛下、それについては我らから進言が。孕み腹の撤廃はさておき、近年では貢ぎものの徴集が多くなり、明らかに収集が遅れがちでございます。度重なる献上で、ヌプンタの各地では、出し渋る声もあるとか。今以上に献上の集まりが悪くなれば、孕み腹に加え、新たな隷従の証も考慮せねばならぬかと」
「陛下。新たな証が必要であれば、人間の王族を人質にしてはいかがでしょう」
思わぬ外交官長の渡し舟にグレンは即座に飛び乗った。グレンもそれは熟考していた。奴隷の認識が根ざす今は、孕み腹の代わりが必要になる。
ようは政略結婚だ。権力を握ろうと、貴族同士でさえ婚姻する。それが王族となればなおのこと。婚姻とは名ばかりで性別は関係ない。ただ、人間の王族であればいい。高貴な身分を人質にして、ヌプンタと民衆を抑制する。
グレンの提案に、中年の外交官長は隣で納得の音を鳴らした。
「それはよい願い出だ。陛下、グレン殿の言い分も、わからなくはありません。各方面に散らした部下の情報によれば、昨今ヌプンタでは貢ぎものに対し、我がシーデリウムに憤りを抱く人間も増えております。今は問題ないといえど、この状況が何十年も続けば、いつの日か人間の暴動が起きても不思議ではございません。万が一のとき、孕み腹に加え、我が国にヌプンタの王族の身がひとつあれば、抑止力になりましょう」
外交官は他国との交流をつなぐ。さらには歴史の大局を道しるべとし、他国の動きを監視する役も担う。祖国の土地と民衆を、二度と踏みにじられないよう。当然ヌプンタの情勢も把握する。
外交官長の一言で場の雰囲気が変わる。次の一手が途切れたところで、グレンは深く拝礼した。
「陛下、孕み腹の撤廃、何卒ご検討くださいませ」
シーデリウムに新たな未来を。残す大きな問題は、孕み腹の撤廃を、国中の獣人にどこまで納得させられるか。
あらゆる方面から数時間の討論を経て、皇帝は静かに、清宮殿を解散させた。
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