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新たな妃の位とはどういうことだ。予想もしない決定にグレンは焦りの声をあげた。むろん皇帝が強行すれば、得られぬものなどないだろう。しかし番の妃でも側妃でも、皇帝の妃であることに変わりない。
そうなれば、ルトがいくら望もうと、生涯ヌプンタへは帰れない。長い先の未来を、シーデリウムの王宮に縛りつけられるのだ。はかない命が尽きるまで。
それでは駄目だ。何のために、新たな未来を切り開こうとしている。グレンもラシャドも。人間を奴隷から解放するという目的は、もちろんある。遠い未来で、人間と獣人が対等であるように、その足掛かりを作る大きな一歩にするためでもある。
だが、ルトを犠牲にするなら見掛け倒しだ。グレンたちが何より守りたかったルトを守れずに、成し遂げたといえるのか。
「陛下。それはなりません。番の妃といえども帝王の妃でありましょう。格式高い側妃様方が、孕み腹と同等にみられるとは。なんと異議申し立てるか。陛下の身を案じる重鎮らも黙ってはおりますまい。奴隷は妃にはなれませぬ。どうか、孕み腹には妃の位ではなく褒章をお与えくださいませ」
「異なことを。奴隷である分を解放したいのであろう。ならば褒章では生ぬるい。余の妃であってこそ正式に地位が確立し、国中に身分が認められるというもの。そうは思わんか。いかにも、名家である側妃らは反発するであろう。ゆえの番の妃だ、側妃にあらず。余の妃ではあるが、その位は側妃より下位だ」
皇帝の指摘に、異議を唱えるグレンが詰まる。反論の隙さえ与えない皇帝が、金の双眸を光らせ冷徹に告げた。
「異論は認めぬ。これにて、孕み腹の討議は終局とする。魔術師総帥は決議のすべてを記憶鏡に収め、厳重に保管せよ。余の伝令を己が心得とし、各官長は速やかに行動を起こせ。基盤が整い次第、朝議殿、次いで民衆に公表する」
***
想定外だ。皇帝の執着を甘く見ていた。まさか、新たな地位を作ってまで、皇帝がルトを傍に置こうとするとは思わなかった。
皇帝の妃だけは受け入れられない、絶対に。清宮殿の解散を受けるなり、グレンは瞬く間に飛び出した。コルネーリォが開発した小型の飛報石を手にする。
孕み腹の撤廃を巡り、ムイック隊長とともに、朝議殿を騒がせるのに一役買ったラシャドも、皇帝の結論を今か今かと待ち望む。が、たった今下された決着には、烈火のごとく荒立つだろう。納得はできまい。
ラシャドの二人目の子を、ルトが無事に産み終えたら、皇帝のもとへ嫁がされるなどと。
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