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「――が決定しそうなのか。なら、ルトの件も順調に進んでるって? はッ。ざけんな。暴動の抑制も兼ねて、他の孕み腹のために、めでたくひとり奉仕しろってか? ヌプンタから寄越される王族を、陛下が娶ればいいじゃねぇかっ」
ずいぶん気が立った声だ。誰かと通信しているらしい。最後の語気が荒い。すべての会話は聞き取れないが、激しい怒声は分厚い扉も突き抜けてきた。最近のラシャドのおかしな様子と、関係があるかもしれない。
孕み腹、ルト、奉仕、ヌプンタ。これだけの単語を並べてみる。もしかして、またルトたち孕み腹がひどい目に合わされるのか。ルトの心臓がきゅっとすくんだ。動悸がして、苦しくなった胸元をきつく握り締める。
機嫌が悪いところへ押し入ってもいいものか。迷っていたら、目の前の扉が勢いよく開かれた。
ルトは休んでいると思ったのだろう。扉の前で棒立ちしていれば、夜着を流し着したラシャドの目が見開かれた。ついさっき怒鳴っていた肉厚な唇が、ルトを見下ろして、居心地悪そうに開いては閉じる。
「……寝てたんじゃねぇのか」
「その、物音が聞こえて」
ラシャドはばつが悪そうに、大きな手を首元にあてた。ルトの頭上から深いため息がこぼれる。気まずい沈黙が流れれば、立ちすくむ細い肩を、太い腕が抱き包んだ。
言葉はなく、力強い腕に身体の向きを変えられる。おぼつかないルトの足がもつれそう。何事もなかったとばかり、平然と寝台まで誘導された。
逞しい腕がルトの背を押し倒し、乱れたシーツに転がされる。薄暗いなか、無言で覆いかぶさるラシャドに困惑する視線を上げた。
「あの。さっき、誰と話をしていたの? 何を……」
「いいから寝ろ。まだ早い」
「でも俺のこと……、孕み腹のことで、怒ってたんでしょう?」
真横からしつこく尋ねたら、漆黒の瞳が制してくる。おそらくラシャドはルトを黙らせたいのだ。もう一度口を開けば、声をつむぐ前に、背中を抱く腕がぐっと締まった。
細い身が、力任せに硬い身体へ隙間なく引き寄せられる。ついでに小さい頭も抱えられて、額と一緒に低い鼻まで胸板に押しつけられた。
ルトをあっさり封じこめ、ラシャドは口どころか瞼も閉ざし、完全にタヌキ寝入りを決めこむ構え。絶対にそう。諦めて、ルトも同じく寝ようか。と言われれば……寝られるわけがない。
エミルたちがさらに苦しめられるかもしれないと思うと、とてもじゃないが寝ていられない。ルトの気も知らないで、こうがっちり抱えこまれてはごろごろと寝返りさえ打てない。夜着から覗く分厚い素肌に顔面を押しつけられて、なんだか息も苦しくなる。
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