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人間を生きた玩具とする横暴な獣人が、孕み腹を悪くしないなんて。そう簡単に頷けないのが本音だった。憂いは積もり積もって、ルトのあまりの活気のなさに、ラシャドもどう接してよいかわからない様子だった。
ラシャドを困らせて、寝室に引きこもって。出口のない迷路をぐるぐるする自分が本当に情けない。このままではいけないと、心のどこかで思ってはいる。けれど落ちこむ一方の気力を、どうやったら取り戻せるか。ルト自身にもわからなかった。
今日は、ラシャドの仕事は休み。最近はルトを気にかけて、たいてい一緒に月白殿に身を置く。けれど久々にどこかへ出かけたよう。いつまでもぐずぐずするルトに、愛想が尽きたかもしれない。
どれくらいの時間を無為に過ごしただろう。寝台の上で膝を抱え、顔を埋めていれば、不意に誰かの気配がした。ラシャドが戻ってきたのだ。珍しく忍び足ではない。
近づいてくる人の気配にのろのろと顔を上げる。視界が眩しく広がり、どこを見ていいのかわからなくなる。反応鈍く、焦点の合わないルトの視界がやっとラシャドの姿を結んだ。
広い寝室の中央で、仁王立ちしたラシャドがいる。気難しい端正な顔は、最近すっかり見慣れたもの。特におかしなことはない。と、思ったけれど。ちゃんと見れば、珍妙なものが目にとまった。ラシャドの腕のなかだ。
ラシャドは小難しそうな顔をして、なぜか、可愛らしい箱を片腕に抱えている。ルトの視線が、ラシャドのしかめっ面から腕のなかの箱に移った。
柔らかい線の星形の箱だ。大きめで、紫がかる青と白の水玉模様。箱のふたが開かないように可憐なリボンまでついていた。似合わなさすぎる。どう見ても変。誰が見てもそう思う。ルトは無言で小首を傾げた。
かわいい箱を抱え仏頂面で直立するラシャドは、険しい目線をためらいがちに箱へ落とす。小さくため息を吐いて、短く口を開いた。
「やる。もらった。差し入れだ」
カタコトのように言葉を繋ぐ。箱の角を鷲掴むと、膝を抱えるルトの近くにそっと置いた。
「なに……?」
「俺は隣の部屋にいる。何かあったら呼べ」
そう言い残し、不本意そうなラシャドは隣の居室に向かった。静かに扉が閉まったのを見届けて、寝台に置かれた星形の箱に視線を戻す。
かわいい箱にかかるのは、紫水色の大きなリボンだ。ルトの瞳によく似ている。解こうとしたら、ふたの上に手紙が挟まっていた。受取人はルト。そっと、丁寧に手紙を取り出す。
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