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 封を開ければ、手紙の四隅に古風な柄が見えた。視界の邪魔にならないよう、小さく丸まった絵柄はどこか上品で優しい。二枚にもわたり、読みやすい文字が、綺麗に並んでいた。 『親愛なるルトへ。これは無事に届いたかな? まだ本調子ではないと、ラシャドから聞いた。少しでもルトの元気が戻るように、ルトが気に入りそうなお菓子を見つけたよ。  俺は、ルトの傍で、君の支えになってあげられないが、ずっとルトの回復を思ってる。俺にできることは、限られているけれど、どうやったらルトの心を癒せるか考えているよ。どこにいても君を思う。  ずいぶん待たせてしまったけれど、俺も、ラシャドも、ルトの力になろうと動いてる。ルトがもう少し元気になれたら、ルトの先の話を一緒にしよう。いい話も悪い話も、包み隠さずに。  どうか知っていてほしい。俺たちは何があっても、ルトの味方で、心から大切で、君の回復を誰より信じていることを』  几帳面に整った字だ。誠実な、グレンらしい字。感情が湧き出そうな力強い言葉の羅列を、ルトの細い指先が順になぞった。  細やかな手紙の節々からグレンの思いが伝わってくる。きっと、何度も考えて、書き直して、ルトを元気づけようとしてくれたのだ。  ラシャドにいじめられたら、若草色の魔術師を頼れとも書いてあった。コルネーリォというそう。今は宮殿付きではないけれど、核種胎のデータがどうとか言って、ときどき月白殿に顔を見せる。丸薬を持って、こっそりルトの体調を整えてくれるのだ。  ラシャドと仲がいいと思っていたら、グレンとも知り合いなのか。三人の繋がりに、文字を追うルトの目が丸くなった。  最後まで読み終えて、手紙を箱の横に置く。可愛く結ばれたリボンをほどき、星形のふたを慎重に開けた。  箱いっぱいに、ころころと入っているのは一口サイズの甘菓子だ。小さめの星や、花びらや、丸に四角。見たこともない変わった菓子だ。眺めるだけでも、いろんな色や形が楽しめる。広い寝室に、甘酸っぱい香りが充満した。  透明な包みに入ったそれを、ひとつ、ルトの白い指先が摘まむ。可愛らしい色合いの貝殻だ。包みを開けて口に含む。少し固くて、飴玉だろうか。ころんとねぶれば、とろけるようにルトの舌を移動した。  甘くて、ほんの少し酸味がある。ルトが好きな味だ。ラシャドが買ってきてくれる、甘酸っぱい果物と同じ。食欲がなくて小腹がすいたら、元気になれるようにいつでも菓子を摘まんでほしいと。 「ふふ。こんなに、食べれないよ……」

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