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 高揚する気分をとにかく落ち着けて、人数分の煎じ茶を用意する。茶菓子はグレンにもらった甘菓子だ。いろんな形をじっくり眺め、緩む頬を引き締めた。二つずつ可愛く添える。手早く準備したら、居間にあるソファー用の低いテーブルへ順に並べた。  どことなく甘い雰囲気を残すエミルたちに、やっと腰を落ち着ける。楽しそうな面々に、ルトは戸惑いがちに口を開いた。 「でも……、みんなは、認めてくれるの? 人間の俺が、獣人を、なんて」  孕む道具と扱われるルトが、よりにもよって獣人を好きになるなんて。てっきりルトは、エミルたちに嫌がられると思っていた。やはり獣人にいい印象は持てない。複雑な気持ちになって、テーブルを囲むエミルたちを見渡した。 「なんでさ? 誰かを好きになるのは自由だよ。それって誰にも縛られない、ルトの気持ちでしょ。相手がどんな人でも」 「僕もそう思うよ。僕、獣人がとても怖いし、今でも好きになれないけど。でもあの獣人は、僕たちを人として扱ってくれるもの。だから、ルトの気持ちも、わからなくはないし、反対もできないよ。だって、あの人は、いい獣人だと思うから」  パーシーとエミルが口をそろえる。思わぬ激励を受けてルトは思わず気が抜けた。テーブルに並べたコップを、ぎゅっと握り締める。うつむきがちに、小さく礼を告げた。するとラザの隣に座るユージンが、今度はやけに真剣な顔で頷いた。 「そうだよなぁ。誰かを想う心は自由だ。それにこういうのって、想いを自覚したらもう手遅れなんだよな。駄目だと思っても、自分で止められないもんだしさぁ。感情がコントロールできないから、きっと好きって、厄介なんだよな」  いやに説得力がある。全員が目をぱちくりと見開いて、顔を見合わせた。ぶつかった視線が、一斉にユージンへ集中する。辛い状況に耐え忍ぶのに精いっぱいで、これまで恋の話などしなかった。  理知的で冷静で。情熱的とは無縁に見えるユージンにも、秘めた恋の経験があるのだろうか。考えていたら、テーブルに身を乗り出したパーシーがルトの気持ちを代弁した。 「え、何。ナニー? その熱い眼差し。真剣な語り! ユージンも、好きな獣人がいるの? 意外なんですけどぉー」 「バカ言うな。俺は違う」 「あーやーしーいーかーらー」  どんどんと机をたたくパーシーを、すかさずユージンがかわす。飽きない話題に、周りから笑い声が響いた。白状しろと、疑いの眼を向けられて、ユージンは慌ててもう一度訂正した。 「俺は無理だって。横暴な獣人どもはどうしたって好きになれない。ルトみたいにはなれないよ。散々な、獣人との記憶だって消したいくらいだってのに。俺は、人間ができてないんだ。心の器が狭いんだよ……ルトと違ってね」  大きく腕を振って跳ねのける仕草をしたユージンが、嘲笑めいて顔を歪めた。人間を奴隷とみなし、命を命と思わない。  何もわからず、無残に散らされた仕打ちを思えば当然だ。雌に群がり、競うように孕ませ合うけだものを、どうしても許せないのだ。  居心地が悪そうにしたユージンに、ルトは視線をあてる。ぶれない紫水の瞳をまっすぐに向け、ふわりと口を開いた。

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