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「俺はいつでも、君のそばにいる。陛下のもとにいることが耐えられなくなったなら、俺は、いつでも君の盾になる。ルトの、疲れた心が安らげるよう。その覚悟はラシャドも同じだ」
どこにいようと、ルトの味方はいつも傍に。揺るがない甘い瞳を向けられて、グレンの思いをひしひしと感じる。ルトは大粒の涙を散らし何度もうなずいた。おそらく、こうして肩を並べられるのは今だけだ。
グレンの綺麗な瞳がルトを包むように見下ろしてくる。グレンの手が、ルトの小さな手を強く握った。大きな体躯がゆっくりとかぶさってくる。
近づく温もりにルトはそっと目を閉じた。薄い口角のすぐ端に、整う唇を寄せられる。ほんの少し、ルトが動けば互いの唇が重なるだろう。でもお互いにそれをしなかった。
大好きな、甘い熱は知らないままでいい。純粋な思いを抱き続けるほうが寂しくない。添えられるだけの、グレンの体温を、少しでも覚えておきたい。
されるがままでいれば、グレンの頬がルトの頬にすり寄せられた。
「ルト。君は番の妃となる。だがこの国で、人間は獣人と対等じゃない。君の身分は側妃より下だ。側妃たちは、おそらく君につらく当たるだろう。そのときは俺が力になる。俺と……、ラシャドが、君の後ろ盾になろう。俺たちが、君を守る」
本当なら、ルトの置かれる身は側妃と同じ。それ以上かもしれない。だが人間は、獣人にとってまだ奴隷だ。
後宮の閉鎖に対する、抗議の上奏はこれからも続くだろう。撤廃すればいよいよ暴動が起きるかも、それでも。
「約束する。俺は、人間が対等にこの国でいられるように全身全霊を尽くす。ルトが生きる今の時代は難しくとも。人間を奴隷なんて言わせない、太平の世が、いつか未来で訪れるように。その礎石を作ってみせる」
たとえ、夢見た幸せな望みが絶たれたとしても、ルトとともに生きよう。グレンがルトの耳元でささやいた。
「今ここで、君に誓うよ」
ルトは何度も頷きながら、グレンの広い背中にしがみついた。
泣きすぎて目がしょぼしょぼする。グレンと別れたとき、ルトの目は真っ赤になっていたに違いない。なのにうつむいたらまた涙がこぼれそう。でも顔を上げられず、下を向いていれば、黒い靴の大きい足先が視界に入る。すぐさま聞きなれた声がした。
「っとによ……、お前って奴は……。どうしてそうなんだ。あいつと逃げりゃあ、好きに、どこへでも、自由に生きられたってのに」
ラシャドだ。コルネーリォもいる。ようやく顔を上げたら、眉間にしわを寄せるラシャドが深々と溜息を吐いた。
すっかり見慣れた態度と口ぶりに、思わず泣き笑いになる。ルトの表情を前に、険しい顔つきのラシャドがさらに詰め寄ってきた。
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