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「そらまた……思い切りがいい奴だな。にしてもだ。獣人に囲まれて、はっきり物を言うもんだ。俺らが怖くねぇのか?」 「見た目は怖いけど……あなたは、俺に無茶はしないと思います。あの人……ラシャドが、あなたをとても、信頼してたから」  強固な顎先を、ごつごつした指でさすり面白そうに虎が言う。獣人を見あげ、ルトは動揺せず首を振った。ラシャドたちは仲間の名を絶対に口にしないと誓っていた。もしものときのために、相手の身を守れるように。  あれだけラシャドが信じ、慕う獣人だ。ルトを悪く扱わないと思う。ルトがすぐさまそういえば、隊長はどこか嬉しそうな顔をして、浮つく声を出した。厳しい目を一転し、きらっとさせる。 「ほぉぉぉぉ。そらずいぶんと、ラシャドを信頼してんだな。持ち上げてくれんじゃねぇか。まっ、そのとおりだがな。ここにいる連中は俺が信を置くものだけだ。孕み腹相手でも、俺が許可しない限り手出しはしねぇさ。だよなぁお前ぇら?」  見るからに頬を緩め、いかつい顔をにんまりとさせる。自信満々に、隊長は隣の獣人を指さした。ぴんと伸ばした親指で、勢いよくどんどんと部下を叩く。太い指を突き刺された獣人が、うっとうしそうに顔をしかめた。 「まぁそうですが……。俺たちはあんたについていきますからね。っていうか。ムイック隊長。やっぱあなた、俺たちをわざとかく乱してたんっすね」  ムイック隊長と名指しして、ぶっきらぼうの声がため息とともに落ちた。直立不動だった姿勢を崩し、突きつけられた隊長の親指をぐぎっと握る。突き刺さる剛腕を、強引にずり降ろした。  若々しく、体格のいい背中には見たことのない変わった両翼がある。翼の一角に、牙のような出っ張りがあった。谷奥に住む竜か。  三日月のような瞳孔だ。真横からぎろっと睨まれた隊長は、悪だくみがばれたような悪戯な顔をした。にやつく視線を、今度は部下に投げる。 「さすがだ、気づいたか?」 「気づくでしょうよ。敬愛する隊長をよぉーく知る部下ならね。いつもは的確に、指示を出すってぇのにねぇ。陛下がらみの、こんなときに限って、見当違いの場所ばっか探せときたもんだ」  やれやれと首を振った部下に、隊長は腕を組みかかかっと豪快に笑った。 「なぁに。ちっとも可愛くねぇ部下が、近頃やけにしおらしいからよ。たまには甘やかして、俺が花道をひとつ、飾ってやろうかと思ってな」 「……ラシャド副隊長です? あの人ずいぶん変わりましたもんねぇ。しおらしいっつうか、真面目になったっていうか。夜の街に誘ってもからっきしで。乗ってこなくなりましたし」  いつから硬派になったのか忘れたが、と竜の獣人がぼやく。聞き入る隊長が感心して、しきりに頷いた。 「まったくだ。気ままで自由奔放なあいつがだぞ。人間のために頭を下げる日が来るとはなぁ。どうやら相手が違ってたんだが、一匹狼の、大人しい姿を拝めるとは。俺ぁ思ってもなかったぞ」  虎と竜が、しみじみといった様子で語り合う。仲間うちの、獣人たちの会話に入っていけず、ルトは黙って耳を傾けた。  どことなく張り詰めた空間が緩くなる。そこで、ルトを見張る、新たな獣人の声が飛んだ。扉付近に立つ獣人だ。会話に聞き耳を立てるのは、ルトだけじゃなかったよう。 「いやぁ。副隊長は、ちゃらんぽらんなようで気風がいいんですよ。やると決めたら、カッコつけてねぇでやり遂げる性格ですから。どっちかってぇと俺は、ラシャド副隊長よりも、グレン殿が陛下に背く日が来るとは、それこそ夢にも思いませんでしたがね」

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