366 / 367

終幕 後世を導くもの

 時空は回り、時代は巡る。獣人王の番の妃となったルトが、この世を去った遥か、遥かのちの未来。  奴隷の身分から番の妃になった少年ルトは、後世の歴史にこう記されることとなる。 『奴隷でありながら番の妃になった、人間の少年ルトは、荒ぶる獣人たちに己を三つに分け与え慈悲の心をもたらした。  一つは漆黒の狼に己の分身を。二つはひたむきな心を琥珀の豹に。最後に、未来のすべてを金色の獅子に託した。  寵童ルト妃の傍には、漆黒と琥珀の獣人が片時も離れず存在したという。彼らは身分の低い、人間の番の妃を常に守り、盾となり、ルト妃に平穏と安らぎを捧げ続けた。  のち、彼らの死後、無双の武神の異名をもつ漆黒の狼は、「メヴィドーシュラ・エンディ(無敗の戦神)」の称号と二つ名を。  知略の鬼神とされた琥珀の豹は、「ヴァギフルゥ・スゥーリオ(叡智の神格)」の称号と二つ名を与えられる。  彼らはなんどきもルト妃を庇護し、二つの存在は、やがて双璧の守護神と語られることとなる。  さらに人間の少年ルトは、慈しみの力をもつ、精霊の血を宿すものでもあったという。ルト妃は、腐敗した世に慈愛の精神を注ぎ、獣人王の始祖の呪縛を断ち切ったともいわれている。  ルト妃は苛烈なアドニス帝王を支え、寄り添い、包み、荒ぶる心を鎮めたという。烈火のごとき獅子王と対等に渡り合う姿はまるで、色も形も大きさも違う、世を羽ばたく一対の翼のようであったと、歴史書は残す。  帝国シーデリウムで、人間が孕み腹として扱われた奴隷の時代。人間を番の妃にしたアドニス帝王は奴隷身分を撤廃し、分裂した大陸を再びひとつに統合した、太平の明君となる。  偉大な功績を讃えられたアドニス・セドラーク賢帝は、崩御したのちの時代で、「セアルギローゼ・スディオーヌ(天の恩寵を受けし聖君)」の諡号(しごう)を与えられた。  そして金色の獅子の傍らに常にあった賢妃ルトは、その生涯をかけて、人間を奴隷解放に導き続けた、先駆者であった』  と。              *終* ――――――――――――――― これで完結になります。ご高覧本当にありがとうございました。 次ページは、お礼と、完結後の妄想をつらつらと書き綴っているだけになりますが、よかったらお付き合いくださると幸いです。 よろしくお願いいたします(*- -)(*_ _)ペコリ ―――――――――――――――

ともだちにシェアしよう!