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【七】放課後

「――そうか。そんな事が」  放課後。昼休みの騒動の話を(色んな意味で)聞きたいとして、風紀委員会室内の聴取室に、僕は二階堂に連れて行かれた。二階堂は満面の笑みだ。完全に楽しんでいる顔である。僕は思わず嘆息した。 「確かに、御子柴雛は、紫樹が外部から編入してくるまでの間――この北藤峰学園の中では、宝灘バ会長の配偶者に最も近い人間という風潮ではあったな。俺から見るとバ会長側からの脈は見えなかったが」  二階堂はそう言いながら、コーヒーサーバーからカップに二つコーヒーを用意して、片方を僕の前に置いた。そして正面に座ると足を組んだ。僕は二階堂の声に顔を上げる。 「配偶者に最も近い……」 「ああ。誰がどう見ても御子柴は、宝灘を好きなのは明らかだったしな――何より本人にも元々は親衛隊が出来るほどの、俺の好みではないがチワワ的な意味合いを超えての美姫、男に対する形容として俺はどうかと思うが、少なくともこの学園ではそう言われていた、にも関わらず、バ会長の親衛隊に入ると宣言して、以降ずっと親衛隊長として従っている。それでもなお、『北藤峰の姫』という渾名は健在だ」  それを聞いて、僕は複雑な気分になった。家柄もよく、美人で可愛く、僕に対しては違ったが普段は従順で……僕より確かに、恢斗に相応しいのかもしれない。二階堂の口ぶりだと、学園でも公認されていたように聞こえる。 「だが、御子柴がいくら迫っても、バ会長が応じる様子は皆無であり――特に風紀委員会においては、『バ会長はEDではないか』という疑惑があったほどだ」  どこか意地の悪い笑顔で二階堂が言った。  僕は吹き出しそうになった。あの絶倫の恢斗が、ED……そんな疑惑があったとは。 「だがまぁ、客観的に考えて……紫樹ほど美人の許婚がいたんならば、他が相手では、勃たないというのも分かる」  二階堂は今度は真面目な顔になり、腕を組んだ。 「姫と呼ばれるだけあって、御子柴は確かに顔は整っている。が、あくまでも平均の範囲内だ。紫樹のように、殿上人とでもいうか……近寄り難い美貌では無い。俺は三次元には興味がないからこうして話も出来るが」  自分について、僕はよく分からないから、何とも言い難い。 「それはそうと、今日からは、紫樹にも見回りの割り振りがある。外部生なのもあるし、誘ったのも俺であるから――他の委員とも少し話し合ったんだが、今回の件もあるし、当面は、俺と一緒に見回りをしてもらう。授業は、今週は出た方が良いと思うのは前も伝えた通りだから、基本的には放課後に割り振った。明日から、一緒に回ろう。今日は他の委員が見回り担当なんだ」 「うん。有難う、二階堂」  僕は気分を切り替えた。それから――御子柴先輩の衝撃で忘れていたが、その前の観察結果を思い出した。 「そういえば二階堂が教えてくれた通り、S組にもいっぱい、恋人同士っぽい二人とか、いい感じの二人がいたよ」 「――だろう? この学園は天国だ。俺も、ずっと誰かと腐語りをリアルでしたかったんだが、これまでは隠れていた。紫樹が来てくれたおかげで、今後は存分に語る事が出来る」  二階堂の顔が一瞬で蕩けた。恍惚とした表情に変わっている。  僕と二階堂は、そこから二人で、S組のCPについて語り合った。  こうして僕は帰宅した。すると恢斗が帰宅していた。リビングで待ち構えていた恢斗は、僕の姿を見るとすぐに立ち上がり、正面から僕を抱きしめた。 「今日は本当に悪かったな、辛い思いをさせた」 「……恢斗のせいじゃないというか、恢斗は来てくれたし、それが嬉しかったよ」  二階堂と腐語りをしたおかげで半分くらい御子柴先輩の件を忘れていた僕は、曖昧に笑った。するとそんな僕の顎を持ち上げて、荒々しく恢斗がキスをした。 「ン」  口腔に侵入してきた恢斗の舌が、僕の歯列をなぞる。指先ではうなじに触れられ、僕の体からはすぐに力が抜けかけた。そんな僕の腰に腕を回して、抱きとめるようにしてから、恢斗が僕の耳元に唇を寄せた。 「好きだ、紫樹」  それを聞いて、僕は小さく頷いてから、目を閉じる。 「――御子柴先輩が、僕と婚約する前の許婚候補だったって本当?」 「確かに御子柴グループからそういう打診はあったそうだが、断っていた。何故なら、宝灘は、本人が直接運命を感じた相手と以外は婚姻を結ばないからだ。俺様の家は、祖父の方針で、元来許婚は持たないんだ」 「え? でも宝灘総帥は最初、しかるべき相手とって――」 「それは紫樹の父親を丸め込むための言葉に過ぎない。それに、俺は断言して、紫樹以外に運命を感じた事は無い。だから噛んだんだ」  恢斗が僕の耳の裏側を指でなぞりながら、苦笑するように言った。僕は、『運命』という言葉に、改めて御子柴先輩の言葉を思い出した。 「けど、御子柴先輩は、恢斗の事を運命だと思ったって――」 「紫樹」 「何?」 「不安か?」 「っ」 「嫉妬か?」 「な」 「――正直、お前に嫉妬されると嬉しいが、絶対にお前を不安にさせたくない。困ったな、俺様の胸中は複雑だ。だがはっきり言って俺は、誰に運命だと名指しされようが、なんとも思わない。たった一人、お前にだけ、『運命』だと感じて欲しい。紫樹は、俺が運命だとは思ってくれないのか?」  囁くように耳元で言われたら、僕は頬が熱くなってきた気がした。  ――運命。  言われてみれば、僕は、恢斗が運命の相手か否かについては、考えた事が無かった。 「……僕、恢斗の事がその、好きだよ」 「もっと俺様に惚れろ」  そう言うと、恢斗がより強く僕を抱きしめた。そして再び唇を重ねてきた。  その後僕達は寝室へと移動した。 「恢斗、今日は週末じゃないからね」 「――そうだな」  僕の服をはだけた恢斗は、ぺろりと僕の首筋を舐めると、獰猛な瞳をした。それからキスマークをつけると、左手で僕の胸の突起を指に挟む。  恢斗の陰茎が挿ってきたのは、十五分後の事だった。穏やかに高められているから、今日の僕には余裕が有る。うなじも噛まれていない。そこで気づいた。こういった普通のSEXは、もしかすると――初めてかも知れない。  快楽が、怖くない。既に散々、入学後に貪られて慣れつつあるからなのかもしれないが、恢斗の温度が自然に感じる。 「ん、ンぁ……ぁァ」  グッと深くまで挿入され、ゆっくりと腰を揺さぶられる。ゾクゾクと交わっている箇所から快楽がこみ上げてくる。その後、緩慢に恢斗が抽挿を始めた。  なお僕は、発情期抑制剤の他に、避妊薬も服用している。卒業後には、どちらも無くなる予定で、自然な発情期に今度は妊娠促進薬を処方される予定だ。Ωに多い服薬スタイルである。 「あ、ああ……ン――っ」 「紫樹は本当に綺麗だな」  ニヤリと笑った恢斗が、そう言った直後動きを早めた。そして激しく僕に打ち付ける。 「あ、ああああ! あ、ァ!!」  それから恢斗が放つまでの間、僕は泣きながら喘いでいた。一際強く貫かれ、中に飛び散る大量の白液を感じた時、僕もまた果てたのだった。足の合間を伝って落ちる、恢斗の白液を感じながら。

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