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【十一】デートと食堂
次の週末も抱き潰されるのかと思って、僕は身構えながら起床した。
けれど金曜の夜は普通に抱かれて、土曜の朝はゆっくりと起きた。たまにはこういう日もあるんだなぁ、と、思っていたら、朝食後に恢斗に言われた。
「今日は、一緒に外に行こう」
「どこに行くの?」
「学期中は敷地からは出られない――が、お前が二階堂と回ったデートスポットは大量にある。俺は、紫樹とデートがしたい」
その言葉に、僕は目を丸くした。
こうして食後、本日は休日ではあるけれど、僕達は制服に着替えて、寮の部屋を出た。僕の指先を絡めとるように恢斗が取り、それから恋人繋ぎをしてエレベーターに乗った。
寮のエントランスまでの道中では、チラチラと視線が飛んできたので、なんだか気恥ずかしかった。それにしても、デートかぁ。家経由でないお誘いなんて、初めてだったりする。胸がじんわりと温かくなったけれど、それは恢斗の指先の温もりが広がったものなのか、判断が難しい。
こうして歩いていき、僕は以前二階堂に紹介してもらった第二校舎前の四阿の一つに連れられて行った。告白スポットらしいが、既に付き合っている二人も多く過ごす場所らしい。四月も終わり、五月に入ろうとしているから、紫陽花が咲きかけていた。
恢斗と二人で、四阿のテーブルをはさんで、向かい合って座る。
「ゆっくり話す時間を取るのも久しぶりだな」
「うん。恢斗、最近生徒会のお仕事が忙しそうだしね」
「紫樹だって、風紀の仕事が忙しいんだろ?」
「まぁまぁかな」
僕の場合は、趣味と実益を兼ねているし、まだ書類仕事などは担当していないから、本当に純粋に楽しい。この日僕達は、昼食時になるまで、ずっと雑談をしていた。そして、日が随分と高くなった頃、スマホで時刻を確認した恢斗が僕に言った。
「そういえば、食堂にはもう行ったか?」
「ううん。まだなんだ」
食堂には未デビューの僕だ。早く王道転入生に来てほしい。そしてその周囲をクルクル回る双子の庶務とかがみたい。恢斗がキスをしたらグサッと来るかもしれないけれど……。
「じゃあ今日は行ってみるか?」
「え? 行きたい」
「紫樹の初めては、本当は全部俺が貰いたいからな。それは食堂も同じだ」
吐息に笑みをのせて、恢斗が笑った。僕は僅かに照れながらも、大きく頷いた。
食堂は独立した建物にある。
僕達が向かうと、担当の人が扉を開けてくれた。そして一歩入ると――仲が静まり返り、それからすぐに大歓声が上がった。
「きゃー! 恢斗様!」
「会長!」
「それに紫樹様も!」
「二人がセットのお姿!」
「お似合いすぎる!」
「しっかし紫樹様、麗しすぎる」
「会長、もうすぐ発表の抱かれたいランキングも絶対一位だな」
「紫樹様も抱きたいランキング入るだろ」
「風紀だから、非公式の方じゃない?」
「二階堂委員長も同率一位は固いだろうけど、やっぱ俺は会長がいいな!」
声がすごすぎるうえ、各所から沢山上がっていた為、僕は個別に聞き取る事は出来なかった。だが、恢斗の人気を思い知らされた気がする。やっぱり、生徒会長はこうでないとなと思った。
「二階が、生徒会と風紀の特別席だ。そちらへ行くぞ」
「うん」
手を繋いだままで、僕達は階段を上がった。一階はタッチパネルによる注文形式みたいだったが、二階は高級レストランみたいな趣をしている。全校生徒に学内で使える、寮の部屋のカギと一体になったカードが配られていて、支払いはそちらでするらしい。学期末に学費とともに清算されるそうだ。
「恢斗は何がおススメ?」
席につき、僕はメニューを開きながら尋ねた。
「ここは魚介類も産地直送で、俺は特に刺身やちらし寿司、あとはそれらを用いた天ぷらが気に入っている」
「そうなんだ」
「シェフも一流だ。俺は天ぷらとざるそばにする。紫樹はどうする?」
「おススメのちらし寿司を食べてみようかな」
「そうか」
恢斗が柔らかく笑って頷いた時、控えていた給仕の方がやってきた。恢斗が手際よく注文してくれる。
「ここでよく食べるの?」
「仕事が落ちついている時は、だな。それ以外は、生徒会室で購買部に運んでもらった弁当かパンを食べる事が多い」
「そうなんだ」
そんなやりとりをしながら暫し待っていると、料理が運ばれてきた。輝くようなちらしずしを見て、思わず僕は笑顔を浮かべる。手を合わせてから、僕達は食べ始めた。本当に美味だったので、僕は夢中で食べていた。だが、食事をしながら会話をする技術は叩き込まれていたので、料理に集中しつつも会話はつづけた。しかしいつの間にか会話が途切れたので、珍しいなと思って顔をあげる。すると恢斗がじっと僕を見ていた。
「紫樹は本当に箸使いが上手いな」
「そう? 恢斗だって同じじゃないかな?」
「まぁマナーは習ったが、紫樹ほど食べる姿まで絵になる人間を俺は知らない。いつでも、どんな仕草でも、流麗すぎて見惚れる」
「あんまり言われた事無いけどね」
まぁ僕は家にいたのだし、ここのところは、学園に通い始めるまでは家族以外とはほとんど顔を合せなかったから、言われる機会も無かったとはいえ。
ただ恢斗に褒められると嬉しい。そのようにして会話が復活したので、料理の味を楽しみつつ、僕たちは昼食のひと時を過ごした。
そして、夜は激しく抱き潰されて、結果としてまた日曜の夕方まで、僕は何度もうなじを噛まれたのだった。
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