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【十二】抱きたい・抱かれたいランキング
その後、少しして五月に入った。五月の頭から、僕は見回りの他に、風紀委員会の書類作業も教えてもらい始めていて、来週からは特権の授業免除を使う事になっている。
教室で授業を受けるのもあと少しだなぁと考えつつ、この日の昼休みも僕は一人でパンを食べながら、S組の恋人達の観察に励んでいた。今のところ昼食を一緒に食べるほど仲の良いクラスメイトはいないが、仲が悪い相手もいない。みんな、僕に対してはあたらず障らずといった感じで、それが少し寂しい気もするが、家の中で孤独だった時よりはずっとマシだし、無視などをされているわけでもない。
「出た! 出たぞ!!」
その時、ガラガラと扉が開いて、報道部の、多田伊織(ただいおり)君が入ってきた。手には丸めた二つの模造紙を持っている。それを彼は教卓の上で広げた。すると一斉にクラスメイト達がそちらへ向かった。
――?
なんだろう?
僕は座ったままで、その後多田君が黒板に、模造紙を二枚貼りつけたのを見た。
「っ」
思わず息を呑んだのは、『抱きたいランキング』と『抱かれたいランキング』と、それぞれの紙の一番上に書いてあったからだ。僕も気になる。つい立ち上がってしまった。そして教卓の方へ近づく。みんなが集まっている中で、多田君は教卓の上に、続いて鞄から取り出したノートを置いた。人だかりが凄くて黒板に近づけなかったので、僕は教卓の前にいるのが精いっぱいだ。しかしそれで良かったと心底思った。ノートには『抱きたい・抱かれたいランキング(非公式)』と書かれていて、上位百名までしか記載されていない模造紙とは違い、全校生徒の名前が書かれているようだったからだ。勿論こちらは、風紀委員会込みだ。僕はそちらをチラっと見た。
タイトルの下には、順位・名前・性差・備考とある。
まず、『抱きたいランキング』だが、こちらはなんとも複雑な気持ちになった。
僕が一位だったからだ……。
ちなみに二位は御子柴先輩で、備考に『入学後初の二位転落』と書いてあった。
三位以下も、特に上位はΩが多い。
気を取り直して『抱かれたいランキング』を見てみる。
一位は同票で、恢斗と二階堂の名前があった。さすが生徒会長と風紀委員長。王道学園なのだから、こうでなくてはって僕は思う。三位が会計で、四位が副会長だった。なお副会長は、αながらに『抱きたいランキング』の上位でもある。なお『抱かれたいランキング』も上位はαが目だった。
ちなみに双方のランキング上位には、それぞれβもいる。
その他の僕の発見としては、非公式のノートには、教職員の名前も含まれていると知った事だった。僕がノートをチラチラ見ていると、頁を捲っていた多田君が顔をあげた。
「紫樹様、これはこの学園の独自ランキングだけど、ご存知でしたか? 気分悪くなってたりしたら、すみません」
「あ……二階堂の話を聞いた事があるので」
僕はさも風紀委員会の仕事で聞いた風に答えた。二階堂とランキングについて、入学前に語り合った事があるので、嘘ではない。決して嘘ではない。
それにしても本物だ……!!
これでこその王道学園だ。やっぱり実物は最高だと僕は思う。
すると多田君がホッとした顔をしてから、スマホを取り出していい笑顔を浮かべた。
「画像を一枚と、抱かれたいランキング一位の感想、お願いできないっすか?」
「えっ? あ、あの……」
予想外の事に驚いていると、その瞬間には写真を撮られていた。目を丸くしていると、そのまま多田君がスマホを操作して、続いて動画の撮影に切り替えたのが分かった。そうか……報道委員だから、こういう仕事もあるんだろう、多分。
「一位のご感想を教えて下さい!」
「……っ、正直驚きました」
変装はもうしていないけれど、僕は自分が目立っているとは思っていない。風紀委員として見回りはしているが、腕に腕章をしているから風紀だと認識される事はあると思うけれど、名前と顔を一致させている生徒は少ないと思っていた。教室でも僕はひっそりとしているし、外部生の数も少ないわけではないから、そう目立つとは思わない。
その後も多田君に僕はいくつか質問されたので、作り笑いをしながら答えた。
「有難うございました! 正直、同じクラスだからインタビューして来いって部長に言われた時は、絶対無理だと思ってた。本当助かった! 紫樹様優しい!」
多田君はそう言うと、大切そうにスマホをしまった。
こうして昼休みは終わりを告げた。
放課後、風紀委員会の活動をしてから寮に戻り、僕は恢斗の帰りを待った。本日も球技大会の準備で遅い様子だ。
「ただいま」
帰ってきた恢斗を見て、僕は歩み寄った。
「ねぇ、抱きたい・抱かれたいランキング見――」
見た? と、聞こうとした。すると恢斗が非常に嫌そうな顔になった。
「多くの生徒がお前を抱きたいと思っているって言うのが気にくわねぇ。紫樹を抱いていいのは俺様だけだ。紫樹、気をつけろよ」
恢斗はそう言うと、不意に僕を抱きしめた。力強い腕の中で、僕は俯きがちに思わず微笑み、額を恢斗の胸に押し付ける。
「大丈夫だよ」
「おう」
「それに僕も、恢斗だけに抱かれたい」
「当たり前だ。お前は俺の大切な運命なんだからな」
僕達は暫くの間、そうして抱き合っていたのだった。
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