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+ 傾国金色の鳥と眞黒の王 + 終わりの物語
「……!!」
急ぎ王宮の奥の宮に駆けつけたが、その恐ろしき光景を目のあたりにし体が動かぬ。
その台座の下では兄二人が地に伏し咽び泣いておった。
妾の姿を目すると宰相である亜藍はこちらを向きゆっくり跪き頭を下げる。
「……これはいかなことじゃ?」
震える唇をやっと動かし事態を問う。
崩御なされた父の上に金の楼主が重なり、一つ刀で刺されておる。
「金華様のお望み、眩子様のご命令でございます」
「……おのれ!」
跪く老将の肩を蹴り倒れたところに馬乗りになりその顔を扇で思い切り打ち据えた。
「芳玉!」
兄達が慌てて間に入り我を止めるも、構わず兄達を蹴り、扇で叩き続けた。兄達は跪き黙って打ち据えられておる。曲がり体をなさぬようになった扇を誉高の顔に力任せに投げつける。
「なにゆえ王である妾に何も知らせず金華を死なせおうた!」
「申し訳ございませぬ。全てわたくしの罪。どうぞ我をご成敗下さいませ」
亜藍は起き上がるとひざまづいて頭を地につけた。
「老いぼれの命ひとつで金華の代わりとなると思うてか!」
再度その体を蹴り倒す。
「芳玉! 宰相殿は父上様の命に従ったまでのこと」
兄達はまたも間に入り我の前に立ち塞がる。
「この腑抜け共め! 何故妾が王となり、そなたらが王と成せなかったかをとくと考えよ! その甘きが国を滅ぼすからじゃ! 金の楼主は国の宝。国益を思わば縛してでも生かすべきであったはずである!!」
「すまぬ……我らが弱きゆえ芳玉にばかり重きを背負わせておる」
誉栄が我の体を抱きしめ誉高もそばにより我の肩を抱いた。
「うわぁああああああーーーーー!!!!!」
体震え、涙溢れ、自らが喚いた声が耳を突き抜ける。
父上様。妾は父上様を恨み蔑しまする!
よくも金華をお連れになりました!!
このような惨き責を負わされ、更に唯一の心の寄る辺までをも奪われるとは!
「芳玉!!」
二人の兄が涙を流し我の体を支える。
「非力なれど我らの命を持ってそなたの礎となる。父上様と楼主様が成した諍い無きこの国の永代を目指そうぞ……」
母の命を喰らうて生まれてきた妾に慈悲の心とこの世の理を教えて下さった楼主様。
なぜ妾を捨て置かれました……。
あまりでございます……楼主様が居ればこそ妾は心保ち、心強くこの地を統べる女帝となりしを受け入れたというに!
震える体を抑え、よろよろと重なりし二人の姿に近寄った。
その白き面に手を添える。楼主様……なんという惨きこと。妾が一度も見たことのない至福の表情を浮かべておられる。そして父上様のなんという柔和なお顔。金華を永遠に独し、さぞかしご満足でございましょうな。
しばし、まだこの世におられるような、その二人の体に縋りつき心沸き立つを沈める。
「誉高、誉栄! 疾く大葬の支度をせよ! 二人引き裂くこと許さぬ。二人収まりし棺を作らせよ。この国を戦無き世にした偉大な王と民の心に平安をもたらした神の宮の主に相応しい豪奢な作りにせよ」
『は!』
我の号に踵を返し二人はここより立ち去った。
残りしは老いぼれと妾のみ。
「亜藍!」
「は!」
「憎き古狸め……妾が何もわからずとでも思うてか! 合でよくも金華を葬りおったな。しかし妾は老いぼれの命などいらぬ。どうせ近く死す身であろう。それまでせいぜい働くがよい」
「……」
亜藍は何も言わず、その頭を低く下げた。
妾はもう決して泣いたりせぬ。
二人の英霊に選ばれしは妾である。
その誇りを胸に必ずやこの国の平安を守り抜いてみせよう……。
ふたたびお二人に合い見えるその時まで。
了
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