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+ 傾国金色の鳥と眞黒の王 + 続きの物語 ※閲覧注意!男女物になります※
※この番外編の内容はBLではなく男女物です😅心はBLなんですが(言い訳💦)直接表現はありませんが、苦手な方は読むのをお控えください!
注意はしたよ。読んでから怒らないでね💦
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王宮の前に造られた競技場では大勢の民が集まり息荒く歓の声を上げていた。数日に及ぶ闘いの後の本日の頂上戦。そろそろ第一の者が決するであろう……。
王である妾の触れにより催された国一番の強き者を決める戦いである。その者を国父とすると決めておる。
「芳玉!」
賑やかしき広場を王宮の窓辺より見遣っておると騒々しく兄二人が入ってきおった。
「まだ間におう。考え直しておくれ……」
相も変わらずたわけた者達である。国の難局をなんと考えておるのか。
「仕方あるまい。二人もおるのに我が兄どもは共に役立たずじゃ。妾が産むが一番易い」
兄たちは妾を懐柔せしと側により狼狽えておる。全く皮肉も通じぬ。未だ妾を守るべき童だとでも思うておる。
「我らは愛しいそなたにそのような心持ちで伴侶を決めて欲しくないのだ。心より愛しきと思う者と添い遂げて欲しい……」
惚けた言葉ばかりに堪えきかず兄たちの顔を扇で打ち据えた。
「うつつばかり申しおって! このたわけどもが! 次は扇では済まさぬぞ!」
「何で打ち据えられても構わぬ。どうか最後は己で愛しき伴侶を選んでほしいのが我らの願いである」
「やかましい! 下がりゃ。妾が決めることじゃ!」
憤怒沸き耐えきれず側女に命じて男どもを追い出した。なにが愛しき者じゃ。おのこ二人もおっていつまでも何をしおうてか。跡目を百も作ってから来やれ!
『うぉーーーー!』
割れるような歓声で部屋が揺れる。
第一位の者が決まったようだの。
窓辺に近づき広場を覗くと返り血を浴びた屈強な男が倒した相手を足蹴にし誇らしげにこちらを見遣った。
大きな体躯。浅黒い肌。獣のような凶暴な瞳。
その禍々しき姿に身の内より怖気が立つ。
愛しき者はもうおらぬ……。
思わず目を瞑ると、美しい楼主様のお姿が浮かんだ。
+ ++ + ++ +
夜半になるも鳴り止まぬ。
地鳴りの如き民よりの祝の声……国中が芳玉様の婚儀に沸いておる。
眩子様亡き後、芳玉様はますます精を持って政事をこなされ、日々研ぎ澄まされし王たる資質に目を見張るばかりである。もはや芳玉様を女人であるゆえと揶揄する者は一人もおらぬ。
儀もつつがなく執り行われ、のち跡目がご生誕されればさらにこの国の平安は盤石なものとなろう……。
なんとも古のこととなったのか……。
我が君の婚儀の夜もこのような大騒であった。
騒がしき城下の上を見やるとあの夜と同じく大きく真白の満の月は煌々とし、やはり我を下しておる。我が君が去られた日もこのような大きゅう月であった。
未だ解らぬ……あの夜、何がこの老の体を突き動かしたのか……我が君が命かけて築いた恒久の平和が崩れるやも知れぬ怖なのか……妖魔が再び地変を起こすかも知れぬ危惧なのか……我が君の最後の望みを叶えるためなのか、もしくはあの妖魔を憐れんでのことか……。
白々しきと笑いながら煌とした光が我を包んだ。
どれも違うておる……。
ただ我はあの真白き体に刃を突き刺してみとうであった……。
芳玉様のお言葉通り生かすのが是でおうた。わかうておりながら我はそれを黙し妖魔を弑した。あのひとときに魂の奥底から湧き上がるが如くの甘き誘に勝てぬであった。
白き背よりざくりと大刀を突き刺した時の悦が蘇えり震えた手のひらを見つめた。若き頃のごとくこの指の末まで血が滾る心地がする。
『忌なお役目を申し訳ありませぬ。どうか亜藍殿に咎が及ばぬよう……』
お渡しすべきか……そう言って渡された芳玉様への親書は未だ我の懐にある。あの妖魔は我に心より感謝し、微笑みながら我が君の姿を追うていった。
わかうておる。あの妖魔がそばにおねば我が君であれど、ここまでのことは成し得ぬであった。荒ぶる王を真の王にしたのはあの妖魔である。偉大なる王に常に寄り添い王の王たる資質を余すところなく具現させおうた。
我が君の写し身の如く、ご気性荒き芳玉様も頼り縋り、あの者の前では虎が猫のごときであった。
芳玉様は眩子様に生写しである。
荒ぶる熱き、強き心、崇高な魂も。
我の小さき、醜きも全て見通しておられる眞黒な瞳。
生まれながらの王の王たる資質。
我の小さき器で重き宿命を背負うておられる芳玉様の唯一の心の拠りを奪い取る惨き行いをしてしもうた。やはり許されることではあらぬ。この祝賀の後 お役目を離れ、ここを去るが是であろう。懐の書状に手を添えた。
「ここを開けよ!」
部屋の扉を叩く音がした。芳玉様のお声である。
「何事でございますか?」
婚儀の夜に花御膳が不在とするは余程の事態であろう。思わず身構え剣を握る。開錠するを待たず扉を強く蹴りながら芳玉様が中に入ってこられた。慌てて頭を深く下げ跪いた。
「あやつとの婚は無しじゃ!」
これは異なこと。
すでに婚儀も終えられたというに。
「何か無礼でもございましたか?」
「無礼どころではない。すべてが気持ち悪うてならぬ。頭の足らぬ獣のような男を国父となすは国のためにならぬ!」
兄上様方の反を押し切り、もっとも強き者を伴侶とすると国中に触れを出し第一の者を国父とするとしたは芳玉様の強き意であったが、やはり女人これだけは計では測れぬ心持ちとなったのであろう……。
しかし未然としたのは良きであった。兄君も多く反されておった。そして我が君も決して望んでおらぬことであったであろう。
「妾は父が死したのち金華を国父となす心づもりであった」
手にした扇で我の顔を上向かせ芳玉様は額が付くほどの距離で我を覗き込んだ。
なんと……国割れるはふたつどころか、三つ巴となるところであったか……。
「美しい金の赤子を手にし跡目とするを奪うた憎きそなたにはその責を負うてもらわねばならぬの」
なるほど、怒り再び蘇えり我を弑しに来られたか。祝賀の夜に不浄ではあるが、これが是であろう。刀下しやすきよう、さらに頭を下げ首を差し出した。
「凡は死すことばかり考えおる。そなたの命など要らぬと申したはずである」
刀の代わりに扇が首筋に打ち落とされた。
では何がお望みであろうか……。
「妾はそなたの愛しき父にそくりであろう?」
我の顔を扇で上げ再び芳玉様の顔が近づく。力強い眞黒な瞳。胸には父上様よりの紫尖晶の首飾りをつけておられる。そくりである。姿形だけでない。身の内より芳香するかの如くと感ずる荒ぶる清廉なその美しき魂。
「そなたに国父となるを命ず」
「……は? いかなことにございますか」
我を国父に? とはいかな計であろうか? 誰ぞの身の代わりになれということであろうか?
「何を惚けておる? 妾に跡目を与えよと言うておる」
苛立ったお声と共に芳玉様は自らの帯を解き始めた。
思わず地に伏したが、目の前に芳玉様の衣が落ちてくるのが見えた。
「表を上げよ」
「なにとぞご容赦を!」
弑されても顔を上げること決してならぬ。およそ芳玉様は何も纏ってはおらぬ。憎きはずの我に何を? 考えが及ばず額に汗が流れた。
「おなごの体ではあるが、まあ良きであろう」
「……!」
肩を強く蹴られ転げたが決して見ることならぬと目を閉じ再び平伏した。
「恐れながら申し上げます。芳玉様、今一度相応しきご伴侶をお選びいただき、お世継ぎをお望みいただきたく……」
「妾が触れたとでも思うておるのか?」
「戯れにも程があります。我はまもなく死す身の老でございます」
「であればますます都合がよかろうの?」
権を持たせぬために国父はいらぬということであろうか……しかし……。
「目をあけ面 を上げよ」
「何卒ご容赦を……」
「ならぬ……」
これは自ら死すよりあらぬ。懐の小刀に手をかけると再び肩に衝撃走り床に転がされ急所を強く踏まれた。
「自死せば、そなたに近き者より百の命無くなると思うがよい」
強く体重が掛けられ息詰まるような痛みが走る。
けっして脅しではあらぬ。本の芳玉様の低く酷で楽しげな声色である。
「これ以上は言わぬ……目を開けよ」
言葉に薄く目を開けた。細く筋のついた女人の美しい裸体が目に映る。首飾り以外何も纏っておられぬ。
「どうか思い直しを……」
「父はとうにおぬというに、なぜそなたはこのような醜き姿を晒し息をしておる? 共に死すことも望まれぬであったからであろう?」
美しい黒豹のようなそのお姿。その魂。まさに我が君の化身であられる。
「哀れよの! 己が一番わかうておろ? 幼少より仕えるも、金華にその身どころか忠となるをも全て奪われおうた。父にとり、そなたなどおらずとも足るものであったのだ!」
それは我が君よりの言の葉。
そのとおりである。その惨きこと。誰より我はわかうておった。
「どうじゃ? 妾はおなごの体ではあるが魂は父そのものであろう? 自らであっても持て余すほどじゃ……」
芳玉様が我に近づきその腕 で我を包んだ。老の枯れた体からあり得ぬほどの涙が溢れその体に強く縋りつく。
我はその御身の代わりとなり生きながら焼かれる責でありました!
その望み! なぜ叶わぬであったのか!
なぜ! 共に死することも叶わず、未だ老の姿を晒すのみであるのか!
芳玉様の高く響く笑い声を遠くに感じながら深くその懐に抱かれた。
+ ++ + ++ +
なんと取り返しのつかぬことを……。
這いずるようにと寝所を出て床を探る。
薄明かりの中,脱ぎ捨てた衣から小刀を探し首元にあてた。
「何をしておる」
寝所より芳玉様のお声がしたが振り向けぬ。
「全てが許されませぬ……どうかお情けを……我はどうしても死なねばなりませぬ。死してもお父上様に会わす顔は持ちませぬが」
「しつけの効かぬ犬が! 幾度 言わせるのじゃ。そなたは妾の物であろ? 勝手な振る舞いをするでない」
振り向くと妖魔よりの書状を読みながら寝所より黒曜石の瞳が我を見遣った。体固まり動けぬ。その心。その姿まこと現身 。
「たびここに来よ。どうせ近く死す身と申したであろう……我に跡目を与えるのを最後の奉とし朽ちるがよい……」
何をも抗えぬ。我の全ては御身の物。それこそが至福。
「なにも考えずとよい」
芳玉様は美しく笑いながら我を手招いた。
涙流したままふらふらとその姿に寄り懐に抱かれた。
今宵も月は大きく真白で煌々としておる。その明るきに老の眼は霞むばかり。我のような寄る辺を求めるだけの凡はただただ命尽きるまで仕えるが喜びである。
了。
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