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第9話

「ソーマ!」 「は、はい」  突然、大佐に声高に名前を呼ばれて、ビクンッと肩が跳ねた。 「君は料理の天才だ!」 (ビックリした〜)  大佐は俺の手料理を気に入ってくれたらしい。感動の余り、声が大きくなってしまったみたいだ。  こんなにも喜んで貰えて嬉しいな。 「噂には聞いていたよ。これが有名な日本食の『スキヤキ』だね。Lecker(レッカー)!とても美味しいよ」 「えっ」 「肉もとても柔らかだ。味がよくしみている」 「あのっ」 「どうしたの。箸が止まってるよ。沢山食べて。……って、君の作った料理だったね。それとも私に見惚れてたのかい。どうだい?上手くお箸を使えるようになったろう」  器用に肉を箸でつまみ上げると、口の中に頬張った。  美味しそうに食べる大好きな人の笑顔に、顔がにやけてしまう。  ……って、そうじゃない。 「大佐!」 「ほら、君も」 「俺?」 「大きな口開けて。それはキスの時、私がこじ開ける口の開き方だよ」 「ちょっ!」  なんて事言い出すんだ、この人は! 「そんなに耳まで赤くすると、君の耳を食べてしまいたくなる。誘惑はディナーの後にしてほしいな。今は君の番だよ。お口開けて……」 「大佐……」 「いい子だ。やっと大人しくなった」  恥ずかしくて、大佐の顔が見られないだけ……  ドイツの人って、皆こんなのだろうか。 「次はどうするの?」  頭上から降る声に、そっと口を開ける。 「口を開けておねだりする君は、小鳥のように可愛いね」  ……チュっ  額にキスが降ってきた。  どうしようっ。もう一生、大佐と顔を合わせられない。 「真っ赤になって……フフ。雛鳥はもっと大きなお口で、親鳥にアピールするんだよ。 『僕はここだよ、ちょうだい』……って。君もできるね?」  優しく髪を撫でられて、心臓の音が一層速くなる。ドキドキ、ドキドキ…… 「Meine Perle(マイネ ペルレ), Soma……あーん」 「………………あーん」  ぱくっ  大佐の箸から舌の上に、牛肉が丁寧に置かれた。 「どう?美味しい?」  ようやく念願の『あーん』を完遂した大佐の笑顔が眩しすぎる。  ううう〜、俺の舌は味さえ分からないのに〜  ………………  ………………  ………………  ★!!  流れとはいえ、あーんしちゃった。恥ずかしすぎるー!! 「どうしたの?ソーマ。もっとほしいの?」  プルプルプル〜  うさぎのように震える俺の頬包んで、ほっぺにチュっ 「君の作ったすきやきだ。美味しいに決まってるよね」  だから味が分からないんです。  あなたのせいで! 「あっ」 「どうしましたか、大佐」 「今朝、おはようのキスするの忘れてたよ」  チュ♥ 「夜だけど、おはよう」

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