25 / 39

第25話

「このままでは……」  一つの国に、二つの政権 「ドイツは、」 「内乱状態になるね」  互いに覇権を巡って、国民同士が戦う事になる。 「だが幸いと言うべきか。大きな衝突は起こっていない。今のうちに止めなければ」  操縦桿を握る手に力が籠もる。 「軍は動いていないのですね」 「あぁ。今は双方睨み合いの状態だ。動くには大義がいる」  大義がなければ後世、歴史のそしりを受ける。 「それに同じ国民同士、戦いたくない」 「そう……ですね」  正しい言葉を美辞麗句で着飾って戦争は振りかざすけれど、血を流し、命が零れても正しいと言える拳が存在するのだろうか。 「止めましょう」 「そうだね」  夜の帳が降りた。  菫の雲の上を機体は進む。 「計器に異常はないようだね。私が代わろう。君は仮眠を取ってくれ」 「でも」 「私からのお願いだよ。休める時に、少しでも休んでほしい。君の力が必要な時に、力が十分に発揮できなくては困るよ」 「ありがとうございます」  隼―改に乗る前に、大佐には操縦の基本と性能を伝えている。  気流の安定した空なら問題ない筈だ。 「おやすみ、ソーマ」

ともだちにシェアしよう!