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いっときの幸せを掴んだ気がした4
手に持っている小さなグラスもそうだ。値段が高くて度数の強い酒しか飲まない、それ以外は酒ではない、と口にしないで宣言しているようである。
そんなところまで魅力的な男であった。俺は瞬時にそこまで感じていた。
「お待たせいたしました」
店員が俺の頼んだものと、お通しを持ってやって来た。無駄のない動きでそっと置き、すぐに立ち去っていった。
「それじゃ、乾杯しようか」
「あっ、はい……」
グラスを軽く鳴らし、喉にアルコールを流し込む。空腹の身に入っていく液体は、冷たいはずにもかかわらず身体の中を熱くさせていくような気がした。
いや、それとも目の前の男が原因か。俺の本能が勝手に身体を疼かせるのか。気付かれないように、平常心を装いながら飲み続ける。
「はじめて見る顔だけど、引っ越してきたばかり?」
「いや、そういうわけじゃ。気が向いて来ただけで、この辺にはそこそこ住んでる」
「そうだったんだ。見たことなくて気になったから、つい声を掛けたんだ」
「はぁ……」
彼と話していると、不思議と自分が自分でなくなっていくようだ。
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