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出会い

 午後から急に雨が降って、生徒用の玄関で空を見上げている時だった。  後ろから声をかけられて振り返った。 「桐生」  声をかけてきた相手に驚いた。同じクラスでも言葉を交わしたことはない。 「傘がないなら乗っていけ。もうすぐ迎えがくる」 「いや、いいよ。駅まで走るから」  送迎の車に一緒に乗っているところを誰かに見られたら変な噂が立つかもしれない。僕がΩだとは誰にも話してはいない。学校には届け出てあるが、それも極秘とされている。  もし近くで発情でもしたら即刻バレてしまう。  桐生が運命の相手であればと願ってはいても、アンチΩじゃないとも言えない。せめて仲良くなってから、自分から話したい。 「じゃあ、俺の迎えが来るまで一緒に待ってくれないか?」  桐生はそういうと、少し明るくなった西の空を指差した。もう少ししたら雨が弱まるのだろう、桐生はそういう意図で僕と車を待つように言ってくれたようだ。  人気のない放課後の時間。桐生がどうしてこんな遅い時間まで校内に残っていのかは知らないが、僕との縁であればと願った。 「少しなら時間がある」  無下にはできなくて、一緒に待つことにした。 「沢木はどうして遅かったんだ?」 「委員会の仕事の説明を受けていたら遅くなった」  クラスから数人選ばれる委員会役員。なりたくはなかったが抽選になってしまったから仕方がない。 「桐生は?」 「俺は生徒会役員の根回しを受けていた。こんなことはしたくはないんだ」  桐生ははぁとため息をついた。  αなら生徒会にすぐにでも推薦されるだろう。入学したばかりでも。 「生徒会役員になれば大学の推薦ももらえるだろう? 受けて損はないと思うけど」  大学の推薦なんてαならいくらでもあるだろが、人望を集めるには格好の役と言える。 「そんなものは欲しくない。俺は静かに生活したいだけだ」  なぜ桐生がそう思っていのか知りたかったが、それを突っ込んで聞けるほど仲良くはない。だけど、こんな上等なαが静かになんて生活できそうにない。誰も放って置かないだろう。誰もが取り入ろうとするだろうし、僕だって仲良くなりたいとは思っている。 「沢木はΩだろう?」 「えっ……」  急に言い当てられて驚いた。 「俺、敏感なんだよ。普通のαなら気が付かないと思うけど。微かにΩの匂いがする」  ドキドキして、ギョッとしたまま桐生を見つめていた。 「そんなに驚くなよ。バレてないし、誰にも言わないから安心しろ」 「……僕、抑制剤も飲んでるよ?」 「そうだな。沢木には決まった番はいるのか?」  そんな相手はいない。もしいればさっさと番になってこの面倒な発情期から解放されたい。 「決まった相手はいない」

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