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出会い

 αと出会う機会なんてほとんどない。僕の家はΩの多い血筋でαから見合いや養子の話しは後を立たない。だからαの親戚もいるが、男の僕を番に欲しいという話しは今のところない。 「なぁ、俺の番にならないか?」 「はぁ?」  驚いて声が大きくなってしまった。 「いや、本物じゃなくていいんだ。煩わしさを払拭させたいんだ。沢木も番がいれば襲われることもないだろう?」  Ωということが周りに知られれば、好奇の目で見られることは多い。面白がって襲ってくるやつもいるだろう。変な噂も立てられるだろう。 「それはそうかもしれないけど、番って……」 「本当には番わない。ただ、俺の番だって周知されればいいんだ」  桐生は雨足の弱まった空を見上げた。 「俺は運命の番を信じてない。そんな者には出会えないと思っている。だけど、相手が誰でもいいとも思っていない。ただ、女は面倒だ」  女性のΩだといろいろと面倒ごとが起きてくるということだろう。子どもだって欲しがるかもしれない。それぞれの家からも後継を望まれるだろう。 「僕だってΩだよ」  Ωだと男でも子どもを産むことは可能だ。女性よりは少ないが可能性はある。 「だけど、男だ」  桐生はじっと僕を見つめる。 「今までも何人ものΩには出会ってきたが、俺はお前がいいと思っている」  それは少なからず、好意があるということだろうか?  桐生ほどの家柄なら選びたい放題だろう。だけど、そんな相手のΩよりも僕がいいとはどういうことだろう。 「もしも出会うことができたら、俺の運命かお前の運命が現れるまででいい。もしも、運命が現れなかったら本当の俺の番になっても構わない」 「どうして僕なんですか?」  桐生はどうして僕を選んだのだろう。  僕とは数ヶ月前にここで同級生になっただけだ。他に接点は見つからない。 「どうしてだろうな。俺にもそれは分からないが、お前のことが気になって仕方がないんだ」  桐生は、「車が来た」とグラウンドの向こう側の門の前に黒い車が止まったのを指差した。 「返事は日曜にお前の家に行く」  桐生はそう言うと車に向かって行った。  雨は止んでいた。

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