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番契約

 いつかは本当の番になれるかもしれない。  αに気になって仕方がないと言われて、断れるΩなんていない。  甘い香りを漂わせて近づいてくるαを拒むこともできない。  日曜日に桐生は本当に家に来た。  両親には、「番って欲しいと言うαに出会った」とは伝えていたが、相手が桐生とは伝えていなかった。  αとΩは番になる以外にも同性でも婚姻することができる。  お互い高校生という立場もあって、大学を出て社会人になってから改めて番、婚姻するということになった。  僕は桐生の婚約者として他のαに襲われないために首輪をつけられた。周りにΩと知られてしまうが、『桐生の婚約者』という大義名分は優越感には勝てなかった。それに、僕の両親は桐生と番うことに両手を上げて賛成したから、いつ番になっても構わないと言った。  僕が桐生の婚約者になったことは瞬く間に知れ渡って、Ωと周りに知られても襲おうと思う輩はいなかった。桐生は偽りの番契約なんて嘘なんじゃないかと思えるほど親しく接してくれた。  僕は優秀な桐生に見劣りしないように勉強に励んだ。桐生に少しでも認めてもらうために。高校もお互い優秀な成績で卒業し、大学も同じところに進学した。桐生の家は多くのαを有する家系で事業も手広くやっている。 学生時代からその仕事の一部を任されていた桐生は卒業と同時にアメリカに拠点を移して、投資家として主にホテル事業を手掛けるようになった。  僕はそんな桐生の手助けができればと秘書の資格を取った。  仕事のパートナーとして周りから認められるようにはなった。  公私ともに支えている。アメリカのアパートでは同居しているが、僕の首にはまだ首輪が付けられている。  まだ番ってはいない。  運命の番なんて現れないじゃないだろうか。  そうしたらこのまま僕と桐生は番ってくれる。  もしかしたら、僕が思っているように桐生こそが僕の運命の番かもしれない。  惹かれ合う運命。僕は桐生に惹かれてはいるが、桐生は分からない。  何年も一緒に過ごしているのに、桐生からは一度も触れられることは無かった。  僕は発情期も重たく、抑制剤もほとんど効かない。3ヶ月に一度訪れる一週間の発情期の大半を部屋で過ごす。部屋には内と外と鍵が付けられている。鍵は桐生も持っているが、その発情期のフェロモンに惑わされることはなく、桐生が開けることは無かった。  桐生は話していた電話を切るとため息をついて机に置いた。  高校生の頃から変わらぬ端正な顔立ちが、大人になってその男らしさに磨きがかかった。細かった身体は仕事の合間のトレーニングの賜物だろう、ほどほどに鍛え上げられてその魅力に磨きがかかっている。  誰もがその魅力に取り憑かれてしまう。 「沢木、昨日の娘の会社は打ち切れ」 「はい。手続きをしておきます」  昨日は会食があった。そこには、共同投資している相手企業のCEOがきていたが、その娘が一緒に連れてこられていた。可愛らしい容姿で魅力的なフェロモンを漂わせていた。明らかにΩ。  言い寄られていたけど……。  同席していたが、桐生は途中でその娘と席を外した。数時間後に迎えを頼まれて行ったけど、べったりと甘い匂いのついた桐生に辟易していた。 「あそこのcooは仕事ができるんだがな」  そりゃあ、魅力的なΩから迫られればαは悪い気はしないだろう。据え膳ってやつだろう。 「面倒は起こさないでくださいよ」 「なんだ。嫉妬か?」  意地悪く笑う。

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