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番契約
和人は桐生と同じαだ。桐生と血のつながったαには興味がある。桐生の両親はαだが、番になっているのでそのフェロモンは感じたことはない。兄の和人はまだ番っていない。
「連絡はこれだけだから分からないな」
スマホを見ているが既読のサインはつかないようだ。
時間を気にしながら仕事をこなし、「これで失礼します」と桐生を置いて会社を後にした。
なんだか身体が熱い。
発情期の予定は数日ずれることがある。
いつもよりも寒気がする。やばいな。
渋滞に巻き込まれない地下鉄を使う予定だったが、地下鉄は人が多すぎる。もしヒートを起こした場合、逃げることもできない。
今からΩ専用のタクシーを呼ぶのも時間がかかる。
石畳の道路を見渡して既に帰宅時間の渋滞が始まっているのにため息をこぼした。
時間通りに着けないかもな。
こんな時に……。こぼしたため息も熱い気がする。
首輪をしているから番にされることは無いかもしれないけど、このまま発情期が始まれば襲われる。
「抑制剤……明日にするか」
ポケットからスマホを取り出すと病院に電話を入れた。電話はすぐにつながって予約の取り消した。
せっかく退社時間を早めたけど、お兄さんが来るのならお菓子でも用意しよう。
それくらいの時間は大丈夫だろう。
早足で有名なパティシエのいる洋菓子店に向かった。
車で行くほどの距離はないが、歩いて行くには距離がある。急いで歩きながらカバンの中を探る。まだ抑制剤の残りがあったはずだ。
甘い匂い?
桐生の香りがした気がした。桐生はまだ会社にいて外には出ていないはずだ。
なんでこんなところで香りがするんだ。周りを見渡しても桐生の姿はない。
香りを感じたことでさらに煽られる。
これは本格的に危ないな。
ケーキ屋に入ったが、夕方ともあって人気商品のロールケーキは売り切れていた。
ケーキの甘い香りと共に桐生の香りが鼻につく。
なんで。
慌ててケーキ屋を後にする。
職場のデスクの中には確実に抑制剤がある。
鞄を握りしめて、来た道を急いで会社に向かった。
今、桐生にあったら確実にヒートを起こす。
こんな街の人通りの多いところでヒートを起こすわけにはいかない。
この時間なら桐生はオフィスの自分のデスクにいるはずだ。
え……。
なんで、ここに桐生が……。
ドクンっ。
身体中から熱が溢れた。
オフィスにいるはずの桐生が会社のビルから出てきた。
桐生の姿を見つけると同時に身体が弾けるように熱が溢れた。
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