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番契約
疲労感とは違う倦怠感。肩まで浸かると首の後ろがチリチリと染みるように痛い。
手を伸ばしてそこに触れると今まであった首輪はなくてその代わりに触れた指先に腫れを感じた。
「沢木、これを」
桐生が白い錠剤を数粒とコップに水を入れて持ってきた。
「抑制剤と避妊薬」
僕は頷くとそれを口に入れてもらって、水を飲まされた。
桐生は望んでいなかったってことだ。
運命の番とは認めていなってことだ。
僕との間に子どもを望んだりはしていないってことだ。
ポロポロと涙がこぼれて、湯に落ちる。
「沢木、すまない。抑えが効かなかった」
バスルームに座り込んでバスタブの中に座っている僕と目線を合わせて桐生が謝る。
「謝らないで……僕は、運命の番だと……桐生を運命の相手だって、信じていたんだから」
だから、急に発情したし発情に身を任せたんだから。
桐生が顔を歪ませて、「運命を信じてないわけじゃない。お前かもしれないとも思う」と言った。
「かもしれないって何。僕は、桐生を初めて見た時からずっと、追いかけてきたんだ」
桐生を初めて見た時の衝撃を今も忘れない。身体中の血が熱くなる程の衝撃。
近くにいてひどくなるばかりの発情期の症状。
桐生をΩが求めていると信じていた。
「確信が持てない。お前のフェロモンには魅力を感じるが、他のΩとの違いを感じない」
桐生は僕がいても他のΩと関係を持っていた。
「魅力を感じるならなんで」
なんで今までの発情期の時には襲わなかったのか。
なんで今日は抑えが効かなかったのか。
「これまでの発情期とは全然違う香りがした。抑えが効かないほどの」
これまでの発情期と何が違っていたのかは分からない。
だけど、桐生を見つけた途端に爆発したかのようにヒートは起きた。今までとは違う発情だった。
「抑制剤が切れかけていたのかもしれない」
抑制剤を受け取りに行く予定ではあったけど、もともと発情期の症状が重いから軽くするために常用している。今朝もいつもと同じように飲んでいた。
夕方に飲む予定だったが、病院で貰ってから飲もうと飲んでいなかった。
「仕事が忙しくて疲れていたから」
言い訳は次々浮かぶけど、納得はできなくて、溢れる涙がポタポタと湯船に落ちる。
「沢木、番になった責任はとる」
番になった。
いつかはと望んでいた。
身体は繋がった。
だけど、なぜだろう、胸は痛んで引き裂かれそうな程苦しかった。
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