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動き出す運命

 子どもを寝かしつけた葉山が桐生と向かい合わせに座って、部屋の簡易キッチンでコーヒーを入れてテーブルに並べた。  子どものを聞くと、自分が産んだ子どもだといつも持ち歩いているのだろう、母子手帳を見せてくれた。相手のαは事情があって番ってはいないと言った。 「あなたに番がいないことは分かりましたが、桐生が反応したのはあなただがΩだってことだとは分かるんですが……」 「ユキは俺の運命の番だ」  桐生が言葉を遮って葉山をじっと見つめる。 「そんなの都市伝説です」  言い返す葉山に、「俺にはわかる」と言い返した。 「ユキほど惹かれる匂いがするΩには出会ったことがない」 「僕には分からない」  葉山は言い返す。  パートナーとの間には子どもがいる。それほどの相手がいるなら、桐生を受け入れることは容易じゃない。  運命の番と突然言われても納得しないだろう。 「沢木と番になっていても惹かれるのはお前が俺の運命だからだ」  桐生の言葉に唇を噛み締める。 「やめて、ください。僕には子どもがいるし、今の生活に満足しています。あなたが運命の番だとしても僕は受け入れられない」  葉山が強く言い返す。 「沢木とは仕事のパートナってだけの関係で……」 「でも、番なんです」  言葉を発してしまった。  桐生を失いたくない。  運命を、どうか僕に運命を変える力が欲しい。  この一言だけでいい。僕が桐生の番だと、一言だけ主張させてほしい。  この恋を、この10年を無駄にしたくない。 「僕は受け入れられない。もしも運命の番だったとしても、僕は望まない」  葉山はじっと桐生を見つめて言った。 「この2年間ずっとユキを求めてきた。他のΩにも出会いはしたが、お前ほど惹きつけられるΩはいなかった。運命だと俺は信じている」  桐生は言いながらじっと葉山を見つめている。  その視界の中に僕はいない。  桐生の思いの中に僕は一切いないのだ。惹かれるΩではないのだ。  仕事のパートナーとしては側にいても、Ωとしての魅力はないと。 「信じません。僕は確かにあの日あなたを受け入れたし、同意もしました。あなたに惹かれもしました。だけど、もう遅いんです」  もう2年も経った。  子どももいる。パートナーだっている。あの時と状況はまるで違っている。  葉山のいうことは尤もだけど、桐生は受け入れられないのだろう。

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