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運命を対峙
桐生はスケジュール通りに仕事をこなして、視察は全て中止した。
すぐにでもアメリカに帰りたいと言うけど、まだ仕事は残っているので仕方がない。
「日本でも診察を受けた方がいいんじゃないか?」
やはり、桐生からのアプローチには応えることができないのだ。
応えることができれば何か変わるかもしれないと思っているのは僕だけじゃない。
桐生に促されて、日本のバース性専門病院を受診することにした。発情期がなくなってから抑制剤は使っていないが、桐生は念のために薬を持ち歩いている。その薬も処方してもらう段取りにしてある。
健康診断は毎年会社で受けているし、体調の問題はない。
番になったばかりで不調を訴えていると初めは言われていたが、もう2年だ。いい加減身体も順応するはずだ。
バース性はまだ謎が多い。精神や身体のストレスと言われて片付けられることも多い。
ただ、まだ桐生も若いし枯れているわけではないからと、僕も心配している。
夜の生活さえなければお互い快適な関係ではあるのだ。
桐生は桐生家の次男だから後継の問題には関係ないかもしれないけど、子どもを作れとは言われるかもしれない。Ωだから妊娠は可能だけど、男だから妊娠は難しいとされている。桐生が肩身の狭い思いをするのは心苦しい。
どうしてなのか病院で相談してみよう。
仕事の関係で日本に残る日にちが伸びて、桐生は機嫌が悪い。
実家に帰る話も出ていたが、桐生の家には僕はあまりいい顔をされないので一緒には行かなかった。桐生は誘ってくれるけど、僕はなんとかはぐらかせて断った。
時間ができて、先にバース専門病院に向かった。桐生が後から合流して抑制剤をもらうので車は桐生に渡してタクシーを使って病院に行った。
受付を済ませて受診をする。
自分の番相手にいつまでも続く吐き気と頭痛を訴えると、詳しい問診票を書かされて血液検査や尿検査を受けさせられた。胃カメラも言われたが、健康診断を受けているので異常はないと断った。バース専門の病院ではあるが、小児科や内科、外科も併設された総合病院で患者も多いが、待ち時間が長い。
予約していた時間が遅かったせいで外は暗くなり始めていた。
桐生は遅くなるだろうと見越して連絡を入れてあったので、待たせることなく診察を受けることができた。
桐生にも異常は無く、相変わらず原因は分からなかった。
先に診察室を出た桐生を待たせて、医師に聞いた。
「このまま受け入れらないことはありますか?」
医師は「体調の変化なども関係しているとは思いますが、はっきりしたことは言えません」と答えた。
「もしも、番を解消したら元の体調に戻るんですか?」
発情期は再発しるだろうけど、桐生のフェロモンに吐き気や頭痛は感じなかった。桐生も僕をΩとして扱ってくれていた。今のように腫れ物に触るような関係とは違っていた。
「それは分かりません。やっぱり身体の変化は起きますから、元の体調に戻れる保証はありません」
「そうですか。解消されたΩってやっぱり精神がおかしくなったり、体調が悪かったりってありますか?」
「それも人ぞれぞれなのではっきちとは言えませんが、何も起きないΩもいらっしゃいますよ」
何も起きない。
「でも、痕はみなさん残ります」
医師はうなじの辺りを指差して、「赤黒いアザですね」と言った。
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