代償は残る。痕が残れば解消されたΩと烙印を押され、一生発情期に悩まされるということだ。 「分かりました」 「何かありましたらご相談ください」 　医師はありきたりなセリフを告げて、「処方箋です」と桐生の抑制剤と僕の吐き気どめと頭痛薬の処方箋を受け取った。 　桐生とこのまま番でいられれるのが僕にとっては一番都合がいい。発情期に悩まされることもない。 　その代償に愛人や妾、結婚は快諾しなければならないだろう。 　ため息をこぼして診察室を出ると待合室に桐生が項垂れて座っていた。 「どうかしましたか？」 「……運命は俺を離してはくれないんだろうな」 「なんですか？」 「ユキが来ている」 　驚いて周りを見渡すが、診察時間は終わって急患の患者しかいな待合室は数人しかいない。しかも、ここはバース専門病院だ。 「子どもがおたふくかぜかもしれないって、熱を出して連れてきたらしい」 「あの子どもはやはりバース性なんですね？」 「ああ、多分αだろう」 　Ωとαの子どもは必ずどちらかの性で生まれてくる。子どもがαなら必死に子どもを守るものも頷ける。 「今はどこに？」 「診察を受けている」 　桐生の視線の先には診察室がある。僕が入っていたところとは別の処置室と繋がっている診察室だ。 「親しげな女がやってきて、俺を『アキ』だと知っていた。一緒に中に入って行った」 　あの夜のことを話すほどの仲の女性。しかも、診察室に一緒に入って行ったってことは子どもとも親しいんだろう。 「こんなところで再会するとは思わなかった」 　桐生は頭を抱えてため息をこぼした。 　もう会わないと思っていた。関わらないと思っていた。 　やはり、運命は離さないのだろう。 　桐生と葉山を繋ぐ運命の番という絆。出会ってしまえば離れられなくなる運命。 　お互いに再会したことは忘れようと離したばかりなのに。 　これで、桐生を手に入れられると一瞬でも思ったことが恥ずかしかった。 　こうして再会して、惹かれ合う運命なのだ。まだ出会っていないなら可能性はあったかもしれないけど、出会ってしまえば……。 「番ない相手ということですかね？」 　αの女性なら、Ωの男性を妊娠させることも可能だ。 「いや、あればβだろう」 　桐生は顔を上げて、「どうする？」と聞いた。 　もう診察は終わっているからこのまま帰ってもいいだろうけど、聞くということは気になっているのだろう。 「診察の結果だけ聞きましょうか？」 　受け入れられないと振られた相手だけど、こんなところで出会ったら気にはなる。 　若い男性が待合室に駆け込んできて周りを見渡して、受付に向かった。人の少ない待合室では受付での声はよく聞こえた。