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運命を対峙
「葉山、葉山彰はもう帰りましたか?」
「今、点滴をしてますからもう少しお待ちください」
「分かりました」
振り返った男は僕たちの少し後ろに座った。
点滴が必要なほど弱っていたのだろうか?
点滴と聞いて不安になった。
診察室を見ていると、抱っこ紐に子どもを抱いた葉山が女性と出てきた。すぐにこっちに気がついて表情を曇らせた。
やはり置いて帰ればよかった。
「大丈夫だった?」
桐生は駆け寄るようにして葉山に声をかけた。
「ええ。風邪だそうです。点滴を打ってもらったら落ち着いてきて寝ました」
葉山は答えながら、桐生から後ずさった。やはり気まずさの方が勝るのだろう。
「すいません。私と桐生のバース診療に来ていて鉢合わせに」
本当に偶然なのだと葉山に告げる。葉山は急患で来ているのだから、本当に偶然んなのだ。
先日のこともあって、気まずさは仕方がないが「いえ、偶然ですから」と葉山も納得した。
葉山に会釈をして、「桐生様帰りますよ」と声をかけた。
桐生はうなづいたが、葉山は付き添いの女性と待合室で一緒になった男性とは別で帰る話をしていた。
「葉山さん、よければ私たちは車ですから送りましょう」
声をかけると、「いえ、そういうわけには」と後ずさった。
「子どもが熱があるんだから、遠慮は必要ない」
「ほら、アキもそう言っているんだから」
急にアキと呼ばれて桐生がじっと女性を見て、「その人は?」と僕が尋ねると、「従妹の鳴海すずです」と快活に返事をした。
「あなたたちはバース性ですか?」
すずを庇うように男性が間に入った。
「ええ、αとΩです」
バース専門病院の中だから躊躇なく答えた。
それに、桐生がそばにいてΩを隠す必要もないだろうと思ったから。
「『アキ』ってことは、友紀の番だろう?」
「いえ、そうじゃないです」
葉山は慌てて否定した。男性を抑えて後ろに下げようとするが、明らかに怒っている男性は葉山の静止を受け付けない。
「智さんは、すずの恋人です。す、すいません。智さん。僕の番じゃないです。智さん、後で説明するから」
葉山が言っても智は身を乗り出して、「すずをもう巻き込まないでくれ」と大声を上げた。
「仕事中には呼び出されるし、保証人にはされるし、アパートの契約だってこっちにまで連絡が来て……」
「智さん、やめてくださいっ。アキには関係ありません」
葉山が言い返しても、「関係ないことないだろう。行きずりで……」「智さんっ」大声で葉山が遮ったが、『バチンッ』と大きな音が響いた。
「智君っ、最低っ」
すずが智の頬を叩いたのだ。
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