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運命を対峙

「最低ってなんだよ。最低なのはそっちだろう。友紀1人に背負わせて、責任取らないってなんだよ」  智は叩かれたことでさらに興奮した。 「智さん、やめてください。僕は、背負ったわけじゃないっ」  すずと智の間に入って葉山が叫んだ。2人はじっと葉山を見つめた。抱かれた子どもは大人しくしている。 「すず、今日はありがとう、もう帰って」  葉山はぎゅっとすずと智の服を掴んで病院の外へと向かっていった。  その3人をじっと桐生は見つめている。 「沢木、今の話どう思う?」  桐生に言われて考え込む。  すずは葉山と桐生の関係を知っていることはわかった。あの智はそれをすずから聞いていたのだろう。 「αに何か恨みがあるのか、葉山さんの個人的なことなのか」  葉山の番ない相手のαに関してのことだろうか。  ごく一部のαには性に奔放もいる。葉山の相手が子どもを産ませて放置ってことだろうか。  この間送った時には単身赴任とも言っていたが、それは相手を隠す嘘だったのだろう。  葉山の相手は他に番のいる身分のあるαなのかもしれない。  それか、子どもがいることを告げられずに逃げているか。 「外に出よう」  桐生に促されて病院の外に出る。  3人は話し込んでいたが、「私はずっとこれからだって友紀のことが大好きだから」とすずが葉山を抱きしめて、「今日はありがとう」と2人を見送っていた。 「送ります」  葉山に告げると葉山は困惑している表情だった。 「彰、彰の父親は誰だ?」  桐生は低く怒りを含んだ声で聞いた。  相手のαに怒りを覚えているのだろう。  自分の運命の番を苦しめている相手。  さっきの話では子どものことですずには多大なる迷惑をかけているようだった。  1人で子どもを育てるのは大変なのだろう。それを智は見かねて怒っているのだろう。 「ごめんさい」  葉山は深く頭を下げた。 「謝ってもらっても分からない」  相手の名前だけでも分かればすぐにαは見つかるだろう。 「桐生様、外で話すことでもないでしょう。彰さんは熱があるようだし、少し落ち着いてから」  桐生は、「分かった」と言って振り返って車に向かった。 「車に乗ってください」  葉山を促して後部座席に座らせて預かっていた鞄を横に乗せた。桐生は助手席に乗り込んだ。 「もう一度色々とお話をお伺いしたいのですが、彰さんが落ち着いてからにしましょう。明後日の午後にお迎えに行きます」  葉山が頷いたのを確認して車を発進させた。横目で見ると桐生は窓の外を眺めてはいたが、明らかに機嫌が悪かった。  α同士として葉山の相手が許せないのだろう。  先日と同じアパートに葉山を送り、助手席に桐生を残したまま後部座席のドアを開いた。抱っこ紐をしている葉山の荷物を持って部屋の入り口まで送った。

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