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運命の時
相手が誰なのか話てくれれば桐生が手を打つことができる。
守ってあげることができる。
桐生と番になってくれたら僕は潔く身を引く。
桐生がふっと立ち上がって葉山の隣に座って、2人を抱きしめる。
「沢木、もういい」
桐生が言葉を切ってくれた。僕は思いの外緊張していたんだろう。
桐生の言葉にホッとした。
「誰の子でもいい。ユキは俺の運命だ」
だから、受け入れてほしい。
「俺は約束を果たした。お前はそれを受け入れろ」
受け入れている。だから、2人の背中を押して、僕を解放してほしい。
「ですがっ、私はあなたの番です。私の運命はあなたですっ」
ずっと信じてきた。ずっと、桐生だと思い続けてきた。
だけど、運命じゃなかった。
「お前は俺の運命じゃない」
思っていても言われれば心が苦しくなる。
「じゃあなんで、ユキさんには子どもがいるんですかっ。運命というなら他のαの子どもなんて出会ってからできるはずがないんですよっ」
ソファーから立ち上がって続けた。
「私はあなたに運命を感じていたし、発情だってしてあなたと番になったんですよっ」
事故だと言われた。運命の相手に事故だと言われた苦しみを桐生はわかってるだろうか。
他の相手がいる葉山を桐生は受け入れられるんだろうか。
「お前が運命を信じているように俺だって運命を信じている。だからお前と番ってもユキに発情して惹かれたんだ。理解できるだろう」
出会ってしまえば、番がいても関係ない。
それが運命の番。分かっている。そんなことは僕が一番分かってる。
運命の番を見つけた桐生を僕の身体は受け入れることができない。
「だけど、私は……」
2人の障害になりたくない。
「約束したはずだ」
桐生の言葉に小さく頷いてソファーに座り直した。
争っている僕を押し退けてでも、惹かれ合う運命に従ってほしい。
「2年も我慢したんですよ。あなたが運命だっていうのを私は耐えたんですよ。なのに突然現れて運命だからって奪われるなんて……。ユキさんは桐生を受け入れるんですか?」
葉山を見つめる。
じっと僕をみている。
「俺はユキを愛している」
真剣な桐生の声。そして甘い香。
それは桐生だけのものじゃなくて、葉山からも香る。
ああ、やっぱり運命の番なんだ。
番がいても互いのフェロモンはわかる。
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