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運命の時

「僕は、あなたの事をよく知らない。だけど……僕も同じように2年間あなたを想って来ました。あの日のことはただの戯れだったんだろうけど僕はずっと、あなたを探していました」  葉山が桐生を見つめ返す。互いの香が運命を裏付ける。  今は桐生のフェロモンが葉山に向かっているから、吐き気も頭痛もしない。  2人の妨げになっていたから僕は吐き気や頭痛を起こしていたのだろう。  運命の番の妨げ……。 「沢木さん。ごめんなさい。僕は、アキと番になりたい」  これが答えで、順当な答えだ。  葉山のパートナーだってきっと妨げにしかならないはずだ。僕と同じだ。  長くため息を溢すと両手で顔を覆った。 「運命だと、運命の番だと……」  桐生は運命を手に入れるだろう。  こんなにも強い運命。運命の番が引かれ合うなら、僕だって信じたい。  こんなに強い絆は僕と桐生にはない。 「私が一番実感させられています。遠くに離れてもなお導かれて出会ってしまう。惹かれあってしまう」  海外で生活していても、距離は遠く離れても惹かれ合う運命なのだ。 「桐生が私を愛していないことも分かっています。約束は守ります」  約束とは何かと葉山に聞かれて、桐生が、「この帰国中に俺が運命の番のユキを見つけることができたら番を解消する約束をしていた。見つからなければ運命ではなかったと、運命の番は沢木だと認めて添い遂げる約束をしていた」と説明した。  葉山は説明を聞いて、「僕には……運命だと、信じる理由が僕にはあって」と俯いていた顔を上げて、ぎゅっと彰を抱きしめると、「彰はアキの子どもです」と言った。 「え?」  アキ……桐生の子ども? 「僕には番もαの相手もいません。あの日、一晩だけのあなたしか僕には相手はいません」  まじまじと葉山を見つめて、あわてて机の上の資料を捲る。 「月齢が一致しないのですが」  彰の生年月日を指差した。誤差がある。桐生の子どもだと3ヶ月近くも差がある。  子どもは十月十日腹の中にいるのが普通だ。だけど、彰はそれよりも大きい。  葉山は床に置いた自分の鞄から大事そうに手帳を取り出した。表紙には『母子手帳』と書かれている。 「Ωの男子の妊娠は女性よりも難しいそうです。それが一晩でなんて僕も信じられなかった。だけど、僕には他に相手もいないし、思い当たることもありません」  葉山は母子手帳を開いて、「それだけでも運命と……想う理由になるでしょう」と言って開いたページを桐生に見せた。そのページを覗き込んだ。 「男の身体は出産に耐えられない。だから2ヶ月早く帝王出産で出すんです」  初見の日付を指差して、健診日が続いて、普通の出産ならば十月十日だが2ヶ月早く出産日が書かれているページを指差した。 「ショウは……」  母子手帳の表紙にはカタカナで名前が記載されていて、表紙をめくってすぐには赤い手形が押されている。その横にまた名前が記載されていて、「アキラと読める」と『彰』という字を指差した。 「少しでもあなたに近いように名前を付けました」  桐生は驚いたようにじっと彰を見つめてから、母子手帳の漢字を指差して、「俺は桐生アキヒト。この『彰』という字に『人』という字を書く」と小さくつぶやいた。 「運命とは恐ろしいですね」  ここまで引き合うのかと笑いさえ出た。

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