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辻褄合わせ

 なかなか会うことが叶わない桐生の兄。同じアメリカに住んでいても州が違えば飛行機で飛ばなないと会うことは叶わない。  今日は桐生と葉山の結婚祝いにわざわざ来てくれるということだった。 「そろそろ来られますよ」  彰と遊んでいる桐生に声をかけた。桐生は、「彰、着替えよう」と言って抱き上げると奥の部屋に向かっていった。 「沢木さん、お兄さんは彰人さんと似てますか?」  僕も会ったことはない。何年も桐生の側にいたが3歳年上の兄は高校も押し出しで、大学は国外の大学に進学してしまい会う機会がなかったのだ。 「写真で見た感じは似てましたけど」  視界の端に入った窓の外。駐車場に車が入ってくるのが見えた。 「私はお茶の用意をしますから、ユキさんは出迎えをお願いします」  葉山の背中を押して玄関に向かうように促した。  カウンターキッチンでいつものようにコーヒーを用意する。お湯を沸かすのに出したポットを火にかけると同時に、玄関のチャイムが鳴った。冷蔵庫の中に入れてあるコーヒーを取り出して、蓋を開けると香ばしい香りが広がった。  リビングに人が入ってくる気配に顔を上げた。  葉山のすぐ後ろに桐生の兄の和人が見えた……。 「え?」  どちらの声かは分からなかった。声に顔を上げて互いの視線がぶつかる。  バクンっと心臓が跳ねて、心拍が上がったのが分かった。甘い香りが自分から溢れたのが分かった。  発情期は渡米してすぐ、先週終わったばかりだ。  だから、これは発情期によるヒートじゃないとすぐに分かった。 「さ、沢木さん?」  顔が熱くなって、めまいを感じてその場にしゃがみ込んだ。  熱い。  発情期は重くて、身体の欲望よりも熱の感覚が強い。全身が熱くなって血液が逆流でもするんじゃないかと思うほどだ。発情期中は加湿した部屋でエアコンを効かせてベッドでうずくまっているのだ。  それに近い感覚。だけど、それよりももっと内側から溢れる感覚。立っていられないほどの高揚感。 「沢木君? だったよね?」  声が、耳を犯す。  うずくまって組んだ腕の中に顔を埋めたまま小さく頷く。 「さ、沢木さん発情期!? え、じゃあ和人さんαだから……」  葉山の慌てる声が聞こえるけど、「違うと思うよ」と和人が遮った。  和人が僕の頭をゆっくり撫でる。それだけで身体が震えた。頭を撫でた指先が首の痣に触れると身震いした。 「ああ、そうだね」  和人は何かに納得してようだった。  首の痣を指先が撫でて、「惜しいなぁ」と呟いた。  何が惜しいのだろうか。  痣がピリピリと痛む。身体が熱くてたまらない。  しゃがんだままの僕に和人がさらに近づいた。そして、耳に囁く。 「見つけたよ。俺の運命」

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