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辻褄合わせ
運命。
これが、運命の番。
どのαに会っても感じなかった高揚感。
初めて桐生に会った時と似ているけど、それよりも強烈だ。
和人が腕を掴んで立たせるが、力の入らなくなった身体はよろけてしまって、そのまま和人に抱き上げられてしまった。
「彰人には改めて会いにくると伝えて」
和人は僕を抱き上げたまま来たばかりのリビングを出て玄関に向かった。
「お、おろして、ください」
「駄目だよ。もう逃さない」
和人はそう言って僕をおろしてくれない。玄関を出るとそのまま自分の車の後部座席に僕を押し込んで、「このままここで犯されたくなかったらじっとしてて」と言ってドアを閉めた。
車はすぐに出発した。
財布も携帯も、靴さえも履いていない。密室の車の中は和人の甘い香りが充満している。それに煽られて僕の香りが立ち上る。
どこに向かっているのかは分からない。
「すぐに着くよ」
和人はしばらく車を走らせて住宅街を抜けるとリゾートホテルに車を入れた。このホテルは知っている。桐生家の手がけているホテルだ。ドライブスルーでチェックインしてコテージを借りることができるのだ。
車が止まればすぐに和人が後部座席のドアを開いた。
「着いたよ」
和人に促されて起き上がると手を引かれて車から降りた。
裸足のままの足。コテージの玄関を開けて中に入るとすぐに、「足を洗おう」とシャワー室に連れて行かれた。
この香。まるで桐生だけど、少し違う。
熱い。
「ここに座れる?」
バスルームの中のバスチェアを指さされて頷くとそこに座った。バスチェアのすぐ横のバスタブの淵を掴んで身体を支える。ズボンの裾を捲られて、温度を確かめたシャワーで足を流してくれる。あわ立てたソープで丁寧に洗われるとくすぐったさよりも快感が勝る。
「さ、触らないで……」
ぐったりと熱い身体を持て余して言っても、発する声までも熱い。
「ああ、本当に可愛い」
和人はうっとりと呟いて微笑む。僕の足を洗うのに床に座っていて下から見上げられる。甘い香りが一層広がって煽られる。
「駄目です。僕は……」
なんて言おうか思い浮かばない。抵抗する言葉が見つからない。
思考が、囚われてしまう。
「桐生と同じ……」
口にしてから後悔する。桐生と同じ匂いなんて相手に失礼だろう。
「そうだよ。彰人は俺の弟だからね。香りはそっくりだと思うよ」
そっくりだけど、少しだけ、ほんの少し違うのだ。
そのほんの少しの違いが僕を煽っている。
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