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辻褄合わせ

「でも、違いが分かるだろう?」  和人は意地悪く笑うと僕の頬に触れる。両手で包むように挟んで引き寄せられる。唇が触れそうになって慌てて後ろに身を引いた。 「わぁ……」  バスチェアごと後ろにひっくり返ってしまった。咄嗟に引かれたから痛みはないけど、恥ずかしさに赤くなる。 「大丈夫?」  和人は桐生とは違うゆったりとした口調だ。それがとても色気を感じる。桐生と同じくらいの長身だけど細身だ。長めのサラサラとした髪が顔にかかってシャープな印象を与える。 「大丈夫です」  床に尻餅をついて足を流すためのお湯で濡れていた床のせいでズボンはぐっしょりと濡れてしまった。  和人は、「あーあ」と言いながら立ち上がった。今度は僕が見下ろされる。  どうしよう。ここから逃げ出したい。  この人は本気だ。僕を捕まえようとしている。  この甘い香りは僕を捕らえてしまう。こんなに甘い香りは嗅いだことがない。  桐生の発情した香りは知っている。むせ返りそうなほどの濃ゆい甘い香りを知ってる。 「僕を、帰してください」 「帰すわけないでしょ」  意地悪く笑う。本当に意地悪だ。  僕が逃げられないことを知っている。身体はいうことをきかない。  甘い香りに煽られて、溶け出すほどの甘い香りが僕からも溢れている。 「そんな香りをさせて外になんて出られないよ?」  こんな香りを放って外に出たらαだけじゃない、βにも襲われるかもしれない。何も持たずに連れ出されたから抑制剤も持っていない。ここには和人しかいない。 「でも……」  少しずつ和人から後ずさって背中がバスルームの壁に触れた。  逃げられない。 「俺の運命だよ。君は、俺の運命だ」  和人が手を伸ばす。その手を取れば受け入れたことになるのだろう。  こんなに違う。  桐生を運命だと思っていたのが間違いだと確信が持てる。 「俺の物になってよ」  和人が笑う。  求められる香り。惹かれ合う運命。  桐生が葉山と出会って、他のΩに魅力を感じなくなったというのを頷ける。  僕という番がいても運命のΩに惹かれた理由が今なら分かる。こんな香り、抗えるはずがない。 「まだ、なるわけじゃない」  この熱をおさめて欲しい。  目の前のαが欲しい。  身体が、Ωがこのαを求めてしまう。  掴んだ手をぎゅっと引き寄せると、和人は僕に倒れ込んできて、抱き締める。 「分かった。まだ、俺の物じゃない」

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