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辻褄合わせ
「沢木君、力、抜いて」
眉間に皺を寄せて苦しそうな声の和人に、「できない」と頭を横に振った。
身体がいうことを聞かない。入って来られる感覚に恐怖を感じる。
「いっ……だ」
熱かった熱が冷めていくのを感じる。確かに甘い香りを感じているのに、身体は反応しているのに心が拒絶している。首から溢れていた甘い熱が冷めていく。
中に入ってくる感覚に身体は強張って和人の肩を掴んでいた手に力が入って爪を立てる。
「……さわ、き、君」
呼びかけられて固く閉じた目を開く。眉間に皺を寄せた和人が身を引いた。
両手で僕の頬を挟む。
和人からは甘い香りがしているけど、さっきまでのヒートで求めるほどの熱は感じない。見下ろしたまま頬を挟んだ手が顔にかかる前髪をかき上げる。
「何を怖がってるのかな?」
優しい声音で呟く。顔はすぐ側にある。甘い香りが僕を包み込む。
「俺が怖い?」
「……和人さんが怖いんじゃ無い」
和人が怖いわけじゃない。その先が怖いのだ。
何度も期待して落とされてきた。運命と信じた相手には運命の番がいた。
信じて、それを糧に尽力して生きてきた。だけど、それは報われることもなく、簡単に奪われていった。
桐生の幸せを願ってはいても、簡単に諦めることも忘れることもできない。
身体を誤魔化しても、周りに取り繕っても、自分自身は騙せない。
「性急すぎたのかな?」
「そうじゃ、そうじゃない」
こんな僕を運命の番だと言って求めてくれたことは嬉しかった。
桐生とは違う相手。僕に現れた本物の運命。
それは、僕にも実感できた。運命を信じていたからこそ衝撃を受けた。
自分の身体が突然変化したことに驚きはしたけど、運命の番だとすぐに受け入れることができた。
「和人さんは僕の運命の番だと……僕にも分かった」
分かった。出会った瞬間にヒートを起こすほどの衝撃を受けた。その甘い香りに眩暈がした。
「だけど、僕はもう番えない」
首の後ろには消せない痕が残っている。どんなに求められても、求めても番という絆は結べない。
僕は一生発情期に囚われたΩなのだ。桐生は僕を守ってくれると言ったけど、桐生には運命の番がいる。
『事故』だったと、間違いだったともう言われたくない。
期待したくない。
「君の一生分の発情期を俺がもらう。誰にも触らせたりしない」
和人は僕の首の後ろに手を回した。
「どうしたら信じてくれるかな? ここに俺の名前でもタトゥーを入れようか?」
信じられるほど和人を知らない。初対面なのだから。
「運命の番は引かれ合って惹かれ合う運命。一度出会ってしまえば離れることはできない。もっと早く出会っていればよかった」
首の後ろを強く掴まれる。
「あの時、奪っていればよかった。君が幸せそうだったから手放した。だけど、奪えばよかった」
和人の手に力が篭る。
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